Global Fact 7 速報レポート(中) 「公共財」としてのファクトチェック【奥村信幸】


写真:オープニングセッションに登場した、国連のフレミング事務次長(右)(YouTubeより)

 6月22日から30日までオンラインで開催されていた、世界のファクトチェッカーの情報・意見交換のイベント、グローバル・ファクト7(Global Fact 7;以下「GF7」と表記)から、興味深いポイントを選んで解説しています。その2回目は、ファクトチェックが、「結果として得られた正確な情報の共有」という、伝統的な考え方にとどまらず、さらに広い視野で議論されるようになった動きについて考えます。

 ファクトチェックという作業を可能にする能力、すなわち人材の育成や、スキルの体系などに加え、ファクトチェックを行うために必要な物理的環境、例えばコンピューターを所有することや、インターネットに自由にアクセスが可能で、デバンキングに使うアプリなどを使いこなせることも含めて、全体が資産(アセット)そのものであり、その所有を増やすことを、国際的な公共政策として考える動きが広まっています。

国連も積極的に関与

 22日のオープニングセッションには、国連のコミュニケーション担当のメリッサ・フレミング事務次長が登場し、現在国連が行っているミス/ディスインフォメーションを撲滅するキャンペーンである、「Verified✓✓(「裏付けのある情報を信用しよう」)」プロジェクトを紹介しました。

 「Pause, #Take care before you share(ひと息つこう。シェアする前に気をつけて)」というハッシュタグでも知られている、ソーシャルメディアのユーザーの意識改革を訴えるキャンペーン( 動画はこちら)です。

国連が進めるVerified✓✓プロジェクトのホームページ

 ミスインフォメーションがソーシャルメディア上でバイラルに拡散するのを防止するためには、情報を確かめずに感情的に反応して、特に怒りを爆発させてしまうユーザーに、理性的に行動するよう促す意識改革が必要です。本来各国がそれぞれ責任をもつべきことでもありますが、問題意識や、どのくらいのリソースやエネルギーを傾注するかには温度差があります。また、ソーシャルメディアを介した情報は容易に国境を越えてしまうため、情報リテラシーを公共政策の一環ととらえて、国連も乗り出しているのです。

ネットのアクセスも「資産」という考え

 さらに、コンゴのファクトチェッカーから問題提起がありました。

 「インターネットへの自由なアクセスは、ファクトチェッカーにとっても、また正しい情報の流通にとってもカギとなる資産です。国連は、特にネットアクセスが容易ではない地域で、問題を改善するための支援をする用意はないのですか?」

 フレミング事務次長は、「インターネットはミスインフォメーションが拡散する舞台ともなり得るリスクもある」としながらも、「コミュニティの基盤が脆弱な場所で、人々が正しい情報にたどり着くためにはインターネットへのアクセスは必要」と強調し、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)などで、ミスインフォメーションに対抗し、正しい情報を行き渡らせる取り組みを行っていることを紹介しました。

 最近の「ファクトチェック」の議論では、インターネットが使えることを前提に、ネット上のツールなどを駆使して行う活動が注目されていますので、この視点は非常に重要だと思います。

 フレミング事務次長は、大量の難民や移民が発生している地域では、正確な情報を行き渡らせるためにラジオが当面は有効な手段とされている現状や、バングラデシュのコックスバザールにあるミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャが避難しているキャンプでは、情報流通のためのボランティアが、自転車で拡声器を持って走り回って、新型コロナウイルスに関するミスインフォメーションに対抗している取り組み(この記事に詳しく載っています)などを紹介しました。(フレミング事務次長らが出演するセッションは、YouTubeで視聴することができます。ただし英語です。)

国境を越えてファクトチェックを届ける

 他にも、ファクトチェックの活動と成果を、ひとまとまりの資産とみなし、行き渡らない地域に向けて支援しようという議論がありました。

 ミス/ディスインフォメーションの拡散やファクトチェックに関する研究を紹介する「アカデミック・トラック」というセッションに登場した、アメリカのコロンビア大学ジャーナリズム大学院のトーマス・ケント非常勤教授は、「オフショアのファクトチェック機関」の必要を訴えました。表現の自由や報道の自由が制限されている独裁国家などで、情報を検証する仕組みを国外に置いて支援する仕組みです。

オフショアのファクトチェックを提唱したコロンビア大学のケント非常勤教授(YouTubeの画面より)

 ケント教授の議論は要約すると以下のようになっています。

 ・国際的なファクトチェック協力の成果はめざましいものがあるが、世界の一部の地域にはその恩恵が届いておらず、「ファクトチェックの欠乏」が生じている。

 ・独裁国家は、ディスインフォメーションを政府が作り出し、情報のプロを利用し、あるいは産業の一部として拡散するが、国内にも国際的にも何の説明もしない。

 ・ファクトチェックは市民社会、メディアとともに発展した経緯があり、ローカル・レベルで、国が発信する情報の検証を、信頼のおける人物(や組織)が行うのが理想型である。しかし、ローカル・ファクトチェッカーが機能するには、政治的な自由が保障されている必要がある。

 ・しかし、独裁国家は、ファクトチェックを担う有力な人物らを「ウソつき」と攻撃して、正しい情報の検証を受け入れないため、正しい情報を提供するファクトチェック機関が存在しないという事態になっている。

 ・2019年に国際ファクトチェック・ネットワーク(IFCN:Global Fact 7の主催団体)は国連総会で演説した各国の首脳の発言をファクトチェックしたが、いくつかの独裁国家のリーダーの発言は、その国にIFCNに加盟しているファクトチェック団体が存在しないため、チェックできなかった。

 ・解決へのアプローチのひとつとして、オフショア(国外)にファクトチェックのチームを置き、民主主義国家と同様の説明責任を迫る仕組みをつくることを提案する。

 ・すでにトロントには、イラン政府をファクトチェックする団体が存在する。この団体は、イラン国外に間違った情報が流出するのを食い止める一方、国内のローカルレベルでの検証や正しい情報の伝達を行っている。

 ・国連総会のファクトチェックでほころびが生じたことは、世界に対し、「ウソを言うリーダーが、やがて民主主義国家にも出現してしまうのではないか」との悲観的なイメージを発信してしまった恐れがある。独裁国家のミスインフォメーションを食い止める活動が国内外に機能していることを示すのは重要である。

費用負担が課題に

 その後の討論でも話題にのぼりましたが、オフショアのファクトチェックのコストをどのようにまかなうのかというのは、大きな課題として残りそうです。ケント教授は、国際的なアクターとしてフェイスブックなどのソーシャルメディア企業に期待すると述べましたが、同時に「フェイスブックは、特定の国とのトラブルに発展する可能性がある問題に関与することに、積極的ではない」とも分析しています。一部の独裁国家はソーシャルメディアの使用が著しく制限されているところもあります。

 人道的な価値があるファクトチェックの活動のリソースを、必要な場所を発見して集中するという、新しいパラダイムに基づいたアイディアがかなり具体性を帯びて語られるようになった一方、国際的にコストを分かち合う仕組みの整備には、未だ課題も多く、当面は国連に依存するしかないのが現状なのです。

 (ケント教授らのセッションは、 YouTubeで視聴できます。ただし英語です。)

(上)に戻る

(下)に続く

 

著者紹介

奥村 信幸(Okumura, Nobuyuki)

武蔵大学社会学部教授、FIJ理事
上智大学大学院修了(国際関係学修士)。1989年よりテレビ朝日で『ニュースステーション』ディレクター等を務める。米ジョンズホプキンス大学国際関係高等大学院ライシャワーセンター客員研究員、立命館大学教授を経て、2014年より現職。訳書に『インテリジェンス・ジャーナリズムー確かなニュースを見極めるための考え方と実践』(ビル・コヴァッチ著、トム・ローゼンスティール著、ミネルヴァ書房)。