FIJは、誤情報に惑わされない社会に向けて、公正なファクトチェック活動を普及するための取り組みを行っています。
その一環として、国際ファクトチェック・ネットワーク(IFCN)の綱領の趣旨を踏まえて、ファクトチェック・ガイドラインを策定しました(2017年10月暫定版公開、2018年9月正式版公開)。現在のガイドラインは、レーティング基準を盛り込み、2019年4月に公開したものです。
FIJは、メディア・団体がファクトチェック活動を行う際に、IFCNの綱領やFIJのガイドラインを参照、活用するよう推奨しています。
各メディア・団体がファクトチェックに関するガイドラインを独自に策定しなくても、FIJのガイドラインを参照することで、ファクトチェック活動を始められやすくなります。
FIJのガイドラインの趣旨を踏まえて継続的にファクトチェック記事を発表しているメディア・団体は、こちらのページで紹介しています。
第1 趣旨
本ガイドラインは、より良質で信頼されるファクトチェックを普及するために、国際ファクトチェックネットワーク(International Fact-Checking Network、以下「IFCN」)の綱領の趣旨(①非党派性・公正性、②情報源の透明性、③財源と組織の透明性、④方法論の透明性、⑤訂正の公開性)を踏まえて、ファクトチェック記事の作成・発表に関する事項を定めるものとします。
本ガイドラインはFIJのプロジェクトに適用するためのものです。
FIJは、各メディア・組織などがFIJのプロジェクトに参加するか否かにかかわらず、本ガイドラインに準拠してファクトチェックに取り組むことを推奨します。
(注)IFCNの綱領の原文はこちら、邦訳版はこちらをご参照ください。
第2 目的・定義
1 本ガイドラインにおいて「ファクトチェック」とは、公開された言説のうち、客観的に検証可能な事実について言及した事項に限定して真実性・正確性を検証し、その結果を発表する営みを指すものとします。
2 本ガイドラインにおいて「ファクトチェック」は、特定の主義主張や党派・集団等に対する擁護や批判を目的とせず、公正な基準と証拠に基づいて、事実に関する真実性・正確性の検証に徹するものとします。
3 ファクトチェックで検証の対象とした言説を「対象言説」と呼ぶことにします。
4 以上の定義に基づきファクトチェックの結果を発表したもので、次の3つの要素を含むものを「ファクトチェック記事」と呼ぶことにします。
①対象言説の特定
②対象言説の真実性・正確性の判定
③判定の理由や根拠情報
第3 ファクトチェック記事の記載事項
ファクトチェック記事を作成・発表するときは、IFCNの綱領(Code of Principles)を踏まえ、以下の事項を満たすように努めるものとします。
1 ファクトチェック記事であることの表示
ファクトチェック記事を発表するときは、それが通常の記事と異なり、ファクトチェック記事として作成されたものである旨を表示するものとします。
2 対象言説の特定
(1) ファクトチェックの検証対象
a. 原則として、客観的な証拠によって事実の存否や正確性を検証しうる「事実言明」とします。何ら事実言明を含まない意見表明や主張は、ファクトチェックの対象としないものとします。
b. 検証の対象は、不特定多数者に公開され、社会に影響を与える可能性のある言説とします。
(2) 対象言説の表記
a. 対象言説は、できるだけ記事の冒頭において、その内容を必要な限度で引用するとともに、誰が、いつ、どこで、どのような文脈で発信したものかも、できるだけ具体的に記載するものとします。
b. ただし、対象言説の発信者を誹謗中傷から保護する必要があるときは、発信者情報を匿名化・抽象化することも認められるものとします。
c. 対象言説の内容について発信者自身が訂正・修正をしているときは、その旨を明記するものとします。
(3) 対象言説が訂正された場合の追記
ファクトチェック記事を公開した後に、対象言説の内容について訂正等がなされたときは、その旨を追記するものとします。
3 事実認定と結論の明示
検証の結果、どのような事実を認定し、どのような結論に至ったのか、対象言説の真実性・正確性についていかなる評価・判定(レーティング)をしたのか、を明示するものとします。
ファクトチェック記事においてレーティングの表記は必要不可欠ではないものの、それを表記して記事を発表する際は、第4「レーティング基準」を参考にして、恣意的な評価・判定とならないよう、一定の基準に基づいた公平な運用に努めるものとします。
4 根拠・情報源の明示
事実認定や結論・判定に至った理由について第三者が検証できるよう、客観的な証拠(エビデンス)・出典や情報源(ソース)をできるだけ具体的かつ詳細に記載するものとします。
5 ファクトチェックと論評・解説の峻別
(1) ファクトチェック記事は、できるだけファクトチェック(真偽の検証)に徹し、意見や論評、解説を混在させないようにします。
(2) ただし、読者の理解を深めるために、ファクトチェック記事の中において解説等を盛り込むときは、私見はできるだけ抑え、必要以上に批判的、攻撃的、侮辱的な表現を用いないものとします。
6 誤解を与えない見出し
ファクトチェック記事につける見出しは、対象言説の内容や検証の結論について誤解を与えないように注意して付けるものとします。
7 記事の公開日・作成者の明記
ファクトチェック記事には、公開した日時と作成者(複数のメンバーが属する組織・媒体において発表するときは、当該記事の担当者名)を明記するものとします。
8 訂正履歴の開示
ファクトチェック記事の内容に重要な追記・修正・訂正などがあったときは、その履歴を読者が容易に認識できるように記載するものとします。
第4 レーティング基準
レーティングとは、ファクトチェック記事を発表する際に表記する、対象言説に関する真実性・正確性の評価・判定をいいます。
ファクトチェック記事においてレーティングを表記するときは、恣意的な評価・判定とならないよう、メディア関係者との協議を踏まえて、以下の基準の使用を推奨します。この基準は、今後もメディア関係者との協議により修正される場合があります。
ファクトチェック記事を発表する際に、以下のレーティング基準を使用せずに、またはそれを一部変更してレーティングを表記することもできますが、そのときは自らに適用するレーティング基準を定め、公表するものとします。
(レーティングの表記と定義)
正確 | 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。 |
ほぼ正確 | 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。 |
ミスリード | 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。 |
不正確 | 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。 |
根拠不明 | 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。 |
誤り |
全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。 |
虚偽 |
全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。 |
判定留保 | 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。 |
検証対象外 | 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。 |
第5 ファクトチェックの透明性確保
ファクトチェック記事を組織的、継続的に作成し発表するとき(期間を限定した活動を含む)は、IFCNの綱領の趣旨を踏まえ、できるだけその活動を始める前、もしくはその活動を始めてまもない段階で、独自のガイドラインと組織に関する情報を公開するなどして、ファクトチェック活動の透明性・信頼性向上に努めるものとします。
1 独自のガイドライン
ファクトチェックの指針として、以下の事項を含むガイドラインを定め、ファクトチェック記事を掲載するウェブサイトに公開します。
(1) 目的・対象言説の範囲
何のために、どのようなカテゴリーの言説(テーマ、ジャンル、発信源・媒体の種類など)を検証の対象とするのか
(2) 選択基準
どのような基準で対象言説を選択しているのか
(3) 判定の基準
対象言説の真実性・正確性を判定する際の基準、判定用語の種類(本ガイドラインのレーティング基準を用いるときは、その旨の表記)
2 組織に関する情報
ファクトチェックを行う組織に関する情報として、以下の事項を公開します。
(1) ファクトチェック部門の責任者や担当者の名前
(2) 組織の財源や使途
(3) 組織の所在地や連絡先
2018年9月6日 ファクトチェック・ガイドライン(第1版)策定
2019年4月2日 ファクトチェック・ガイドライン(第2版)策定
(ガイドライン委員会)
委 員 瀬川 至朗(早稲田大学政治経済学術院教授)
委 員 立岩 陽一郎 (認定NPO法人ニュースのタネ代表)
委 員 楊井 人文(弁護士、一般社団法人日本報道検証機構代表)
委 員 乾 健太郎(東北大学大学院情報科学研究科教授)
委 員 小川 和久(静岡県立大学特任教授)
委 員 奥村 信幸(武蔵大学社会学部教授)
委 員 金井 啓子(近畿大学総合社会学部教授)
委 員 ジョン・ミドルトン(一橋大学大学院法学研究科教授)
委 員 藤村 厚夫(スマートニュース株式会社フェロー)
委 員 牧野 洋(ジャーナリスト兼翻訳家)
委 員 山﨑 毅(NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)理事長)
(委員はガイドライン第2版策定当時のものです)