ファクトチェックの定義など


 

ファクトチェックの定義

ファクトチェックは、社会に広がっている情報・ニュースや言説が事実に基づいているかどうかを調べ、そのプロセスを記事化して、正確な情報を人々と共有する営みです。

一言でいえば、言説・情報の「真偽検証」となります。

FIJの「ファクトチェック・ガイドライン」では、次のように定義しています。

公開された言説のうち、客観的に検証可能な事実について言及した事項に限定して真実性・正確性を検証し、その結果を発表する営み

 

ファクトチェックの対象

世の中に影響を与える言説や情報のうち、真偽が定かでないものや正確さに疑いがあるもの、事実かどうか検証されていないものが、ファクトチェックの対象となります。

ニュース記事、インターネット上の情報はもとより、政治家や有識者など社会的影響力をもった人物の言説も対象となります。

近年はネット上の情報が影響力を増していますが、ファクトチェックはネット上の情報に限られるわけではありません。

また、誤情報・偽情報だけがファクトチェックの対象となるわけでもありません。

真偽が定かでないため、調査・検証した結果、正確、もしくはほぼ正確であることが確認された場合や、誤りとは言えないが重要な事実が欠落していて誤解を与える場合など、様々なケースを取り扱います。

 

基本的なルール(1) 事実と意見の区別

ファクトチェックはあくまで「事実」かどうかを検証する営みですから、原則として「事実言明」に限って検証するというルールがあります。

事実(fact)と意見(opinion)を区別し、個人の価値観に基づく意見や評価そのものは基本的にファクトチェックの対象にしません。

事実とは、何らかの「証拠」によって第三者が確認できる事柄をいい、過去に起こった出来事が典型例です。

ここで、『理科系の作文技術』(木下是雄著、中公新書)で用いられている例文を見てみましょう。

① ジョージ・ワシントンは米国の最も偉大な大統領であった。
② ジョージ・ワシントンは米国の初代の大統領であった。

まず、②の文章はどうでしょうか。

ジョージ・ワシントンが実際に初代の大統領であったかどうかは、客観的な資料などにより確認できるので、事実を述べた言説(事実言明)と言えるでしょう。

では、①の文章はどうでしょうか。

「最も偉大な」大統領であるかどうかは、人によって評価が分かれる事柄でしょう。「偉大さ」を客観的に測る指標はなく、人によって「偉大」と評価する基準は異なるので、このような言説は典型的な意見と言えます。

このように価値観や立場によって見方が分かれる意見・評価・解釈・論評、主観的な認識、内面的な心情・心理などは、ファクトチェックの対象外になります

ですから、ファクトチェックを行う際は、まずその言説が「事実言明」か「意見表明」かを見極めることがとても重要になってくるのです(英語では、ファクトチェック対象となる「事実言明」を “factual statement” といいます)。

もっとも、人の言葉は曖昧かつ複雑なので、「事実言明」か「意見表明」かを区別することが難しいこともあります。

そのようなケースでは、客観的な証拠の有無・内容を調査することによって第三者が確認できる事柄かどうか具体的な事実や出来事について述べたものであるか抽象的な認識を述べたものであるか、をよく検討しなければなりません。

ファクトチェック記事を発表する際も、事実の究明に徹する必要があります。意見や論評を書くときは、そうだと明確に分かる表現を使うことが求められます。

 

基本的なルール(2) 証拠に基づく検証

ファクトチェックは、原則として調査によって収集・入手できる証拠(公開情報や文書など物的、客観的証拠)に基づいて、現実的に検証可能な「事実言明」を取り上げることが一般的です。

たとえば、一般公開されていないものの、情報公開請求などによって入手した証拠も、ファクトチェックで使うことができます。

第三者による再検証・再確認が困難な匿名情報源に基づく検証は、極めて例外的です。

 

基本的なルール(3) ファクトチェック記事の3要素

世界各国で行われているファクトチェックは、基本的に次の3つの要素から成り立っています。

この3要素を備えて記事化されたものを「ファクトチェック記事」といいます。

① 対象言説の特定・選択

まず、ファクトチェックの対象とすべき言説・情報を選び出します。

原則として、公開の場で不特定多数に向けて発せられた公益にかかわる言説・情報で、社会的に影響が大きく、真偽検証する意義のあるものを選ぶことになるでしょう。

通常は、ファクトチェック記事の冒頭で検証対象の言説内容を明示します。それを選択した理由や検証する意義について説明することもあります。

② 事実や証拠(エビデンス)の調査・明示

その言説・情報の真偽を検証するために必要な事実関係の調査・取材を行います。

前述のとおり、第三者が確認できる証拠を見つけ出し、読者もその内容を確認できるよう、ファクトチェック記事で明示することが必要です。

③ 対象言説の真偽・正確性についての判定

事実調査の結果を踏まえて、対象言説について「正確」か「不正確」か、「ミスリード」か、といった判定を行うことになります。

このような判定のことを

「レーティング」(Rating)

と呼びます。

レーティングは、読者に対してわかりやすくファクトチェック結果を伝える意義があるものの、強い印象を与える要素ですので、判断基準を明確化しておく必要があります。

FIJでは、モデルとなる「レーティング基準」を作成しており、ファクトチェックに携わるメディア・組織等が自由に使うことができます。

実際にファクトチェックを行う際に、何に気をつけていくべきなのでしょうか。

この点について、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)が具体的な注意点をまとめた記事を発表していますので、ご一読をおすすめします(主に政治家の言説をファクトチェックすることを念頭に書かれていますが、ファクトチェック全般に共通した注意点も含まれています)。

 

国際的な原則とFIJのガイドライン

ファクトチェックを行う人(=ファクトチェッカー)は、予断を持たずに、公平に、事実かどうかの検証に徹することが求められます。

誰しも自分の意見や感情、主張などを持っていますが、それらをいったん脇に置いておく必要があります。

特定の主義・主張や党派・集団等を擁護、あるいは批判する目的で、ファクトチェックを行うべきではありません。

「非党派性・公正性」(non-partisanship and fairness)の原則ーーこれは、国際ファクトチェックネットワーク(International Fact-Checking Network、IFCN)が掲げているファクトチェック綱領の最も重要な考え方です。

ほかにも、組織運営や方法論の透明性など、5つの原則が示されています。

① 非党派性・公正性(Nonpartisanship and Fairness)
② 情報源の基準と透明性(Standards and Transparency of Sources)
③ 資金源と組織の透明性(Transparency of Funding and Organization)
④ 検証方法の基準と透明性(Standards and Transparency of Methodology)
⑤ オープンで誠実な訂正方針(Open and Honest Corrections Policy)

FIJでは、こうした国際原則を踏まえて、ファクトチェックを実践するための具体的な指針として「ファクトチェック・ガイドライン」を策定し、メディア等に活用してもらえるよう公開しています。