《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.29)【大船怜】


インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。新型コロナウイルス感染症に関連する“要注意”情報のうち、主要なものを簡潔に紹介します。(大船怜ネット上の情報検証まとめ管理人)


1.「中国の検査キットにウイルス付着でジョンソン英首相が激怒」
→中国という根拠は無い

この話は元々英紙デイリー・テレグラフの記事に端を発している。記事によれば、ルクセンブルクに本社を持つバイオ分析企業ユーロフィンがイギリスに輸出する予定だった新型コロナウイルス検査キットのうち、「プローブ」と「プライマー」と呼ばれる内容物にウイルス汚染があったという。

記事によれば、ユーロフィンは「世界中のいくつかのプローブ・プライマー製造業者(several primers and probes manufacturers around the world)」で汚染が確認されたと認めているが、この「製造業者」がどこの国かは明かされておらず、中国とするのは現段階では想像に過ぎない。

また、この「プローブ」と「プライマー」をPCR検査で鼻に入れる綿棒のこととする誤解もあるが、共にウイルスの検出に用いられるDNAのことで、綿棒のことではない(綿棒は「スワブ」)。

この件についてジョンソン英首相が激怒しファーウェイとの5G契約を取り消そうとしているというのも根拠不明で、そのような話は現在全く挙がっていない。


2.「ロイター通信が安倍夫妻を『世界一間抜け』『臆病でナメクジのよう』と皮肉」
→前者は誤り、後者は誇張

落語家の立川談四楼氏は「世界一間抜けなファーストレディー」という表現をロイター通信が使ったかのような投稿をしているが、実際はロイター記事を引用した一般ユーザーの投稿の言葉で、記事自体にこの表現は登場しない。

また、「臆病でナメクジのように遅い」は記事中の「a timid and sluggish response to the outbreak(感染拡大に対するtimidでsluggishな対応)」が相当すると思われるが、これは「及び腰で動きが鈍い」といった程度のニュアンスであり、「臆病」「ナメクジ」のような極めて攻撃的な表現とはずれがある。さらに言えばこの文には「what critics say(批判的な人が言うには)」と付いており、批判としてもロイターは間接的に述べているに過ぎない。


3.「野党、補正予算の審議短縮を拒否」
→古い記事で現在と状況が異なる

4月20日に話題になった共同通信のこの記事は、日付が明示されないまま多くの公職者・著名人らにも拡散された。しかし記事は15日のもので、政府の給付金に関する方針が既に変更されている現状には当てはまらないものだった。

15日当時、政府与党は新型コロナウイルス対策の給付金について「収入減世帯に1世帯あたり30万円」という方針で予算審議を進めていたが、翌16日に「所得制限無しで1人あたり10万円」に転換。野党は10万円給付と合わせて当初の30万円給付も予定通り行うべきと主張している


4.「政府配布のマスクに大量のダニ」
→政府発表や報道無く根拠不明

政府から学校や各家庭に配布された布マスクに不良品が見つかっているのは事実で、髪の毛などの異物混入のほか、汚れ、カビといった事例が政府発表や報道により明らかになっている。

しかし、「大量のダニ」に関してはこれまで公表された事例に含まれず、少なくとも現時点で「ニュース」で伝えられたという事実は無い。「虫」というのはあるがその数や種類は判明しておらず、現状では根拠不明というべきだろう。


5.「総理に3300円の布マスクを突っ込まれた後朝日新聞SHOP閉鎖」
→閉鎖はそれより前

安倍首相が朝日新聞社運営の通販サイトでの布マスク販売について言及した記者会見は4月17日。サイトは6日には政府の緊急事態宣言を理由に全商品を受注停止していることが確認できる(キャッシュ)ため、突っ込まれた後というのは正しくない。

ただし、同社の布マスク販売に対する批判はネット上では3日頃から既にあり、会見以前のこうした批判がサイト自体の停止に影響した可能性は全く無いというわけではない。


6.「ドイツが中国に多額の損害賠償を請求」
→タブロイド紙独自の主張

ドイツのタブロイド紙「ビルト(Bild)」が独自に中国への「損害賠償」を算出したというのが事実で、ドイツ政府がそのような請求をしたわけではない。


7.「エクアドルの海岸で放置された感染者の遺体(動画)」
→無関係の映像

2014年、アフリカからヨーロッパへ向かう移民を乗せた船がリビアの海岸で難破した時の映像である。


その他

FIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)では新型コロナウイルスに関する情報の検証結果などをまとめた特設サイトを開設。国内外の真偽に疑義のある情報を紹介し、随時更新している。

また過去のまとめでも、新型肺炎関連の様々な誤情報について検証を紹介している。

 

(この記事はINFACT(運営:NPOニュースのタネ)からの転載です。過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2020年4月29日の予定です)

著者紹介

大船 怜(Ofuna Rei)

NPOメディア「INFACT(運営:ニュースのタネ)」編集委員
1986年千葉県出身。2011年3月東日本大震災をきっかけにネットの誤情報等の検証・注意喚起を行うTwitterアカウントを開設。現在派遣社員として一般企業に勤めながら「ネット上の情報検証まとめ」(@jishin_dema)を運営している。大船怜はペンネーム。