インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜=ネット上の情報検証まとめ管理人)
今週紹介する“要注意”情報
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(1)「『100日後に死ぬワニ』作者連載前に電通へ打ち合わせ」
日付
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3/23 |
発信者
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一般ユーザー |
媒体
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拡散数
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1.8RT | |
内容
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「【悲報】『電通案件ではない』と公式に否定した100日後に死ぬワニの作者さん、100日後に死ぬワニ投稿開始直前に電通で企画打ち合わせをした形跡をネット探偵団らに発見される 加えて求人サイトでのステマ労働募集と、一斉に投稿された大量の宣伝ツイートも発掘される」とするスクリーンショット付きの投稿。
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引用
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【検証】無関係な会社や人物
Web連載漫画「100日後に死ぬワニ」が20日に連載終了する直前、書籍化やグッズ販売などのメディアミックス展開が発表され、その唐突な大規模キャンペーンは様々な論争を呼ぶこととなった。これに関してネット上では、そのPR戦略に大手広告代理店の電通グループが大きく関わっていたのではないかという噂が広がった。
その根拠の中には、上掲のように、①漫画連載開始の直前に漫画作者のきくちゆうき氏が電通関連企業で打ち合わせをしていた、②クラウドソーシングサイト「ランサーズ」で作者に関するWeb記事の作成依頼があった、③漫画について書かれた同一文面の投稿が大量のTwitterアカウントからされた、というものが含まれている。しかし、この中で、①は事実誤認、②と③は漫画やメディアミックス企画とは無関係の人物によるものである可能性が高い。
まず、①に関しては、きくち氏がTwitterで東京都西多摩郡のJR箱根ヶ崎駅の写真を投稿し「打ち合わせしてきた」と述べたこと、箱根ヶ崎駅近辺に「株式会社電通研究所」という名前の会社が存在することが論拠とされている。しかし、きくち氏は打ち合わせ>の相手について明言していない上、J-CASTやその他一般ユーザーが確認した不動産登記簿から、この「電通研究所」は単なる電気部品メーカーで、広告代理店の電通グループとは無関係と考えられる。航空写真で確認できる会社所在地にも、電通グループとは似つかわしくないごく小規模な事務所が建っているだけだ。
②、③についてもJ-CASTが取材などで検証。「ランサーズ」で募集していた依頼者は無関係なトレンドブログ運営者であったこと、大量のTwitter投稿は情報商材購入への誘導が目的の可能性が高いことを確認している。
(2)「インドネシアのマラピ山が噴火した(動画)」
日付
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3/28 |
発信者
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マーティン・ファクラー(ジャーナリスト) |
媒体
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拡散数
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9300RT | |
内容
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海外ユーザーが投稿した動画(現在は削除済)を引用し、「インドネシアのマラピ山が噴火した」などとする投稿。 | ||
引用
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【検証】噴火は事実だが、動画は2年前の別の火山
動画は2018年2月、同じインドネシアのシナブン山が噴火した際に海外ユーザーによって投稿されたもの。
マラピ(ムラピ)山が最近噴火したのは事実で、AFP通信が報じている(3月27日、3月3日、2月13日)。
(3)「『554人を養子』韓国人が子ども手当8600万円申請」
日付
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3/25 |
発信者
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Share News Japan |
媒体
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まとめブログ |
拡散数
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Twitterで9700RT |
内容
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「【兵庫】『タイで子供554人を養子にした』 韓国人が約8600万円の『子ども手当』を尼崎市に申請」と題した記事。 | ||
引用
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【検証】2010年のニュース 市は受付を拒否
記事は、2010年4月の日経新聞の報道を引用しているものの、当初、記事の日付を明記していなかった(キャッシュ)。現在は「※注意:2010年の記事です」と追記されているが、「Share News Japan」が10年近く前の古いニュースを記事化した意図は不明である。
なお、尼崎市はその場で厚労省に照会した上でこの申請の受け付けを拒否している(これは当初から記事中に記されている)。
(4)「中国・三峡ダムが大規模に土砂崩れ(動画)」
日付
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3/24 |
発信者
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孫向文(漫画家) |
媒体
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拡散数
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4800RT | |
内容
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海外ユーザーによる動画付きの投稿を引用し、「三峡ダムが大規模に土砂崩れ、移動、もうすぐ決壊するだろう。」などとした投稿。 | ||
引用
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【検証】動画は2012年スイスのもの
この動画は2012年、スイスのアルプス地方で起きた土砂崩れを映したもの。また、上掲の動画にはサイレンのような音声が入っているが、元の動画には無く、編集で付け加えられたものと考えられる。
中国・湖北省の三峡ダムは、以前よりネット上で歪みが生じているという噂が流れているが、政府や運営する国営企業がこれに反論している。三峡ダム周辺で土砂崩れが起きたという信頼できる報道は現在のところ無い。
(5)新型コロナウイルス関連特集
以下、新型コロナウイルス(新型肺炎)に関連する“要注意”情報のうち、主要なものを簡潔に紹介します。(順不同)
1.「4月1日にロックダウン」
→首相らが否定 現行法で政府に都市封鎖の権限無し
LINEやSNSなどを通じて、「4月1日からロックダウン(都市封鎖)が行われる」といった内容の噂(2日というバージョンもあり)がチェーンメール的に拡散。これは安倍首相や菅官房長官が明確に否定、新型コロナウイルス対策特措法に基づく緊急事態宣言がもし行われる場合も事前に国会に通知すると述べている。
噂は「テレビ関係者」「大手企業取締役」などの情報源が語られ、中には馬淵澄夫衆議院議員や西村康稔経済再生担当相の名が使われたものもあった。しかし、噂は少なくとも3月28日には「今晩か明日の晩に緊急会見がある」といった内容で発生しており、拡散が大規模化した30日には既に事実との食い違いが生じている。「今晩か明日の晩」という文言が更新されずそのまま伝播したため、この矛盾が気付かれにくかったようである。
- 「4月1日ロックダウン」「テレビ関係者の情報」LINEで出回る”うわさ”に注意。その見分け方は? (BuzzFeed)
- 「4月1日からロックダウンに入る」チェーンメールが『LINE』を中心に出回る。デマなので注意 (ITジャーナリスト・篠原修司氏)
2.「マドリードで65歳以上の人工呼吸器を外していると訴える医師(動画)」
→医師でない可能性が高い 当局も内容を否定
涙ながらに訴える人物は「スペインの医師」として拡散されているが、彼は動画の中で自分を医師とは明言していない。彼の名前はスペインの医師登録リストに無く、Facebookのプロフィールによれば医療を学んだ経験も無いようである。
スペイン保健省は、現在人工呼吸器は足りているため高齢者から外されるような事態は起きていないと否定している。
- No dejan sin respiradores a los ingresados con coronavirus mayores de 65 años (Agencia EFE)
- La persona que aparece en este vídeo hablando sin pruebas de la retirada de respiradores a los mayores de 65 años para dárselo a personas más jóvenes no es un médico español (Maldita.es)
- <著名人による拡散例>本田圭佑氏(サッカー選手)
3.「プーチン大統領『家に3週間いるか刑務所に3年間いるか』」
→ジョークが元か
そのような発言は実在が確認できず、恐らくインドのコメディアンによるジョークが元と思われる。
4.「イタリアで若い患者に人工呼吸器を譲り亡くなった神父」
→同僚らが否定
当初現地報道を元にこの話を伝えていたBBCは、亡くなった神父の同僚である別の神父らが否定したことを受け、記事を修正している。
5.「ビル・ゲイツの『新型コロナウイルスから学べること』」
→財団が否定
「私たちは皆平等であることを想起させてくれます。」などと始まる14項目の文章だが、これはビル・ゲイツ氏が書いたものではない。ゲイツ夫妻が設立したビル&メリンダ財団の広報担当者が否定している。
この文章はジュリアン・レノン、ナオミ・キャンベルといった海外の著名人も拡散していた。
- Coronavirus: Fake Bill Gates ‘letter’ shared as Covid-19 misinformation circulates online (The Independent)
- A Fake Bill Gates Coronavirus Quote Has Gone Viral (BuzzFeed英語版)
6.「エリザベス女王が陽性」
→偽ニュースサイトの創作か
ソースは偽ニュースサイトと思われる素性不明のサイトだけ。主要メディアは女王は健康であると伝えている。
7.「自民党経済対策提言 DJ券を検討」
→ニュースのコラージュ画像
ニュース動画(下記FNNの0:31頃のシーン)をコラージュした画像。元は「お魚券」。
他に、「不要不急の授業を減らすため『必修単位』の配布を検討」というバージョンも出回った。
8.「いかりや長介が志村けんに送った最後の手紙」
→ドラマのシーンのパロディ
新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなったコメディアンの志村けん氏について、先輩の故いかりや長介氏からの最後の手紙とする「志村へ この手紙をもって俺のコメディアンとしての最後の仕事とする。」と始まる文章が拡散。しかし、これは2003年放送のドラマ『白い巨塔』に登場した文章のパロディである。
- Twitterで「いかりや長介が志村にあてた手紙」が拡散 → デマ指摘続出 「白い巨塔」の名文とほぼ同一 (ねとらぼ)
- 「いかりや長介が志村けんに送った最後の手紙」はデマ。内容は『白い巨塔』の遺書のパロディ (ITジャーナリスト・篠原修司氏)
9.「イベントのチケット代を払い戻ししないと全額国に入る」
→主催者に回る
プレイガイドへのサービス料・手数料を除くチケット代は主催者側に回る。
政府・自民党は、払い戻しをしなかった分を寄付と見なして税制上の優遇を行う対策を調整中だが、これは主催者側の手元に資金を残せるようにするのが目的だ。この際、消費税分は主催者から国へ支払う必要が生じるのではとの指摘もあり、現状では具体的方針は不明だが、いずれにしても「全額国に入る」ということは無い。
- コロナで中止になったコンサートのチケット、払い戻ししないとどうなる? 打撃を受けた“推し”をどう応援したらいいのか調べてみた (ねとらぼ)
- イベント事業者の資金繰り対策で税の優遇措置へ 政府・自民 (NHKニュース)
10.「森喜朗氏が五輪延期の可能性を『トゥエンティ・トゥエンティ』と言った」
→可能性のことでなく「2020年」の意味
東京五輪・パラリンピックの開催延期が24日に決定する前の22日に会見を行った森喜朗・組織委員会会長が、延期の可能性を「フィフティ・フィフティ(五分五分)」と言うべきところを間違えて「トゥエンティ・トゥエンティ」と言った、という言説が拡散された。
実際の会見動画を見てみると、森氏はニューヨークタイムズ記者の「延期する場合は2021年と2022年のどちらが好ましいと考えているか」との質問(22:43頃~)に対し、「我々はトゥエンティ・トゥエンティと、そういう方向でおります」と回答している(24:22頃~)。これは可能性の話ではなく、「延期ではなくあくまで2020年開催を目指している」という意味に取るのが自然だろう。
- 史上初の五輪延期決定的 IOCが4週間以内に結論 森会長「我々は2020という方向」(Sponichi Annex)
- <著名人による拡散例>五野井郁夫氏(政治学者)
11.「ヨネスケが尋常じゃない咳」
→咳は確認できず 体調問題無し
フジテレビの番組『直撃LIVE グッディ!』に生出演していたタレントのヨネスケ(桂米助)氏が、放送中「尋常じゃない咳」をしていたという言説が拡散。しかし、実際の放送ではそのようなシーンは見られず、所属する協会もヨネスケ氏の体調に問題は無いとしている。
その他
FIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)では新型コロナウイルスに関する情報の検証結果などをまとめた特設サイトを開設。国内外の真偽に疑義のある情報を紹介し、随時更新している。
また過去のまとめでは、新型肺炎関連の様々な誤情報についても検証を紹介している。
(この記事はINFACT(運営:NPOニュースのタネ)からの転載です。過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2020年4月8日の予定です)
大船 怜(Ofuna Rei)
NPOメディア「INFACT(運営:ニュースのタネ)」編集委員
1986年千葉県出身。2011年3月東日本大震災をきっかけにネットの誤情報等の検証・注意喚起を行うTwitterアカウントを開設。現在派遣社員として一般企業に勤めながら「ネット上の情報検証まとめ」(@jishin_dema)を運営している。大船怜はペンネーム。