《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.9)【大船怜】


インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。

(1)「首相代表の支部 違法な支出か」

日付
11/26
発信者
Yahoo!ニューストピックス
媒体
ニュースサイト、Twitter
拡散数
Twitterで1800RTなど(一時、Yahoo!ニュースのトップに掲出)
内容

「桜を見る会」の問題に関連して、安倍首相の説明と反する内容の領収書を入手したとする文春オンラインの「安倍首相が代表の選挙区支部 『桜を見る会』に旅費支出の疑い」と題した記事に、Yahoo!ニューストピックスが独自に「首相代表の支部 違法な支出か」というタイトルを付けて配信(現在削除)。Yahoo!ニュースの公式アカウントは「『桜を見る会』とその前夜祭について、週刊文春が、首相が代表の選挙区支部が旅費を支出したことを示す領収書を入手。首相は『旅費・宿泊費等のすべての費用は、参加者の自己負担』と話していた。」と投稿した(キャッシュ)。

引用

Yahoo!ニュースの公式アカウントのTwitter投稿(現在削除)

【検証】配信元の記事に「支出が違法」の指摘なし Yahoo!はツイート削除

元々の文春記事は、「桜を見る会」のために上京する安倍首相の事務所スタッフの旅費を、首相が代表を務める政党支部が出したことを示す領収書を入手したとする内容。

記事では、「安倍事務所、安倍晋三後援会としての収入・支出は一切ない」とした安倍氏の説明と矛盾するという指摘はしているが、スタッフに旅費を出すこと自体に違法性の疑いがあるという記述は無かった。したがって、Yahoo!ニューストピックスによる「首相代表の支部 違法な支出か」というタイトルは文春記事の内容を正しく反映しているとは言えない。このタイトルは一時Yahoo!ニュースのトップに掲出されていた(参考:和田政宗参議院議員によるスクリーンショットのツイート)。

また、記事が指摘したのは事務所スタッフへの旅費の支出であり、招待客に旅費が出されたという記述は無い。Yahoo!ニュースの「首相が代表の選挙区支部が旅費を支出したことを示す領収書を入手。」という要約ツイートには誰の旅費が支出されたのか書かれておらず、誤解を招くおそれがある。すでにツイートは削除されている。

なお、安倍首相の事務所は、報じられた支出の事実を認めたうえで「支出に何ら問題はなく、収支報告も適切に行っている」との見解を示している


(2)「安倍内閣支持率 岩手民報3%など」

日付
11/23
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
4300RT
内容

「安倍内閣支持率 高知新聞 26% 十勝新聞 24% MXTV 22% 埼玉新聞 16% Yahoo!世論調査 9% 日本農業新聞 7% 神奈川新聞 5% 岩手民報 3%」と書かれた投稿。

引用

アカウント名等モザイク処理は筆者による(以下同様)

【検証】大半が誤り 「岩手民報」は現存せず

BuzzFeedが検証している。投稿で各社の内閣支持率調査のように紹介されている数字は、市民団体による街頭調査を報じただけで社の世論調査ではないものや、質問内容が異なっているもの、さらには現存しない「岩手民報」(1978年頃廃刊)の名前を使った全く出所不明のものまで、大半が誤った内容だった。

BuzzFeedが唯一「正確」と判定した高知新聞の数字も、高知県民のみを対象とし、2018年末に行われた古い調査結果だった。


(3)「10月の小売売上高が歴史的低下という報道が全然出てこない」

日付
11/29
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
1.8万RT
内容

「日本の10月の小売売上高が歴史的低下ってアルジャジーラからブルームバーグまで報道してるのに日本語で検索すると全然出てこない上に、わずかに出てくるニュースも9月からの下落幅−14%じゃなくて前年同期比の−7%の方しか載せてないし。」などと書かれた投稿。

【検証】多くのメディアが報道

10月の小売売上高が大幅に低下したのは事実だが、その報道が日本でわずかしか無いというのは誤りで、多くの主要メディアがこれを報道していた。

「前月からの下落幅-14%じゃなくて前年同期比の-7%の方しか載せてない」という指摘は、日経新聞を除いてその通りだったが、「前年同月比」を用いるのは統計に関する報道の通例であり、今回が特段異常だったわけではない。しかも、NHKなど多くのメディアが「前回増税時の落ち込みよりも大きい」と報じていた。

詳しくは、別稿のファクトチェック記事を参照のこと。


(4)「石破氏、激怒して憲法審査会を途中退出」

日付
11/28
発信者
朝日新聞
媒体
ウェブ配信記事
拡散数
Twitterで5000RTなど
内容

石破氏、憲法審査会を途中退出 発言機会与えられず」と題し、28日の衆議院憲法審査会で石破茂衆議院議員が発言を求めるも指名されなかったことで激怒し、「同僚議員の静止を振り切り、退出した」とする記事(キャッシュ)。

【検証】記事は訂正

記事は、Twitterで朝日新聞の前田直人記者による引用のツイートが約1200RTされたほか(現在は削除)、落語家の立川談四楼氏も「石破茂さんが憲法審査会を途中退席した。激怒してだ。」などとTwitterに投稿し、約5000RTされるなど、大きな反響があった。

一方で、同じ憲法審査会の場に出席していた玉木雄一郎衆議院議員は「確かに石破さんは怒っていましたが、『途中退室』はしていませんよ。」などとTwitterで指摘

石破氏が発言の機会を与えられず激怒している様子を伝えた他紙(産経毎日日経)にも、「途中退出」という記述は無かった。

その日のうちに、朝日は見出しを「石破氏、憲法審査会で指されず激怒 発言機会与えられず」に変更し、訂正した。「同僚議員の静止を振り切り、退出した。」としていた本文中の記述は「そのまま審査会は終了し、石破氏は怒りが治まらないまま部屋を後にした。」と修正された。記事末尾には、

当初、石破氏が憲法審査会を『途中退出』としていましたが、その後、衆院の事務局への取材で石破氏は審査会終了時まで出席していたことがわかりました。訂正します。

との訂正文が加わった。

なお、記事はウェブ配信のみで、朝日新聞の紙面上には掲載されなかった。


(5)「乱視や近視が分かる画像」

日付
10/26
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
2.9万RT
内容

「3246―乱視と近視 3240―乱視 1246―近視眼 1240―健康な目」と書かれた、画像付きの投稿。

引用

【検証】近視診断は眼科医が否定

ねとらぼが検証し、大きな反響を呼んだ。

投稿ではあたかも画像にどんな数字が見えるかによって乱視や近視が診断できるかのように書かれているが、ねとらぼが取材した眼科医は「乱視に関しては否定しきれない部分もあるが、近視に関しては論理が破綻している」とコメント。投稿内容は海外で拡散されたものの流用と見られるが、海外メディアでも眼科医が診断の有効性を否定している。

(この記事はニュースのタネからの転載です。過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2019年12月11日の予定です)

著者紹介

大船 怜(Ofuna Rei)

NPOメディア「ニュースのタネ」編集委員
1986年千葉県出身。2011年3月東日本大震災をきっかけにネットの誤情報等の検証・注意喚起を行うTwitterアカウントを開設。現在派遣社員として一般企業に勤めながら「ネット上の情報検証まとめ」(@jishin_dema)を運営している。大船怜はペンネーム。