《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.22)【大船怜】


インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜ネット上の情報検証まとめ管理人)


(1)「新国立競技場の光景が『AKIRA』のシーンと一致(画像)」

日付
2/26
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
1.1万RT
内容
新国立競技場らしき画像とアニメ映画『AKIRA』のワンシーンの画像を並べて「一致し過ぎててワロえない」などとコメントした投稿。
引用

アカウント名等モザイク処理は筆者による

【検証】競技場はコラージュ画像

これらは元々別のユーザーが投稿していた画像だが、その際はこの新国立競技場の光景が現実のものかどうかは特に言及されていなかった。むしろ「コラなんですね」というリプライに対し「いいね」を付けるなど、元の投稿者は画像がコラージュであることを認めているようである。

実際この画像は、背景に立つビル群が競技場から離れた東京駅付近と酷似していることや、競技場は現在既に完成しているにもかかわらず画像では建設用の巨大クレーンがあることなどから、コラージュと考えて間違い無いだろう。


(2)「(総理会食翌日)ランサーズの取引先から『内閣府』の文字が消えた」

日付
2/26
発信者
香山リカ(精神科医)
媒体
Twitter
拡散数
7800RT
内容
「昨日 ネットで政権擁護・野党disの書き込みの仕事募集してたランサーズの社長と総理が会食。ネットで話題に。 今朝 取引先から昨日まであった「内閣府」の三文字が消える。 仕事早っ!」とするスクリーンショット付きの画像。
引用

【検証】それ以前に既に無かった可能性が高い

クラウドソーシング事業大手のランサーズは、社長である秋好陽介氏が2月25日に安倍晋三首相と会食したことが伝えられると、過去に同社のサイト上で政治関連の仕事募集が掲載されたことと関連付けられ批判が起きていた(同社が直接募集しているのではなく、請負業務のマッチングサービスを運営)。

ランサーズの「会社情報」のページで主要取引先として過去に内閣府が記載されていたこと、現在では無くなっていることは事実である。しかし、記載が削除された時期は香山氏の言う「昨日(25日)」から「今朝(26日)」の間ではない可能性が高い。

ランサーズは26日の発表で、一部取引先の記述を削除したのは「2019年8月末」と表明。2017年10月に上述の政治関連の仕事募集に関連した批判が起きたのを受けての対応だったとしている。BuzzFeedJ-CASTの取材に対しても、ランサーズは同様に回答している。

この時期のウェブページのキャッシュは残っておらず確定はできないが、「内閣府」の記述が無くなったという指摘は少なくとも2019年10月には複数存在する(参考12)。そのため、削除は首相との会食が話題になった2月25日よりもかなり前だった可能性が高い。

BuzzFeedの検証を参照のこと。


(3)新型コロナウイルス関連特集

以下、新型コロナウイルス(新型肺炎)に関連する“要注意”情報のうち、主要なものを簡潔に紹介します。(順不同)

1.「中国が『日本新型コロナウイルス』と名付けている」
→「日本での感染状況」の誤訳

元警視庁刑事の坂東忠信氏はYouTube上の番組で、駐日中国大使館による文書の中に「日本新型コロナウイルス肺炎感染は絶えず変化し」という文言があるとして批判した。

これは駐日中国大使館HP上で公開された「日本新型冠状病毒肺炎疫情不断变化」とある文書を指していると思われるが、当該文書の日本語版の同じ部分は「日本国内で新型コロナウイルス感染症をめぐる事態が持続的に変化」で、「日本新型コロナウイルス」とはなっていない。大使館のTwitterアカウントも「その文章の意味は『日本でのコロナウイルス感染状況が変化している』、『日本新型コロナウイルス肺炎』という意味ではまったくない」と説明している。

さらに中国語ネイティブと見られる複数のユーザーからも誤訳の指摘を受け、既に坂東氏は「『疫情』まで含めると確かにそうですね。」と誤りを認める投稿をしている。


2.「トイレットペーパー不足デマの出所はこの人物」
→それ以前から噂は発生

ウイルスへの懸念からマスクが不足しているのに続き、「マスクと原料が同じトイレットペーパーも不足する」という誤った情報の拡散から買い占め現象が起きたことはメディアでも大きく取り上げられた

そんな中、ネット上ではさらにこの誤情報の「出所」と名指しされた人物に批判が集まり、本名や顔写真が拡散されたり、勤務先が謝罪を発表したりする事態となった。しかし実際には、この人物がトイレットペーパー不足を主張したよりも前に、複数の一般Twitterユーザーらが「品薄になりそう」といった投稿をしているのが確認できる。噂は特定の個人が広めたというよりは、同時多発的にどこからともなく生まれたと見るのが自然だろう。


3.「スイス製簡易検査キットを政府は頑なに導入しない」
→既に導入済み

これは医師である上昌広氏のコメントとしてNEWSポストセブンのオンライン記事に掲載された主張だが、実際は記事掲載日よりも前の時点で既にこのスイス製キットの導入が認められており、「頑なに導入しない」という事実は少なくとも記事掲載時点には既に無かった。


4.「クルーズ船 日本の検査で陰性だったのに米国で11人陽性」
→日本の検査でも陽性

この主張を投稿したユーザーが引用していたCNNの報道によれば、米国で検査した13人のうち、陽性の11人中9人は日本でも陽性、2人は結果が不明。2人が双方の検査で陰性だった。なお、別報道では米国で検査されていない1人を含めた14人が日本で陽性とされているが、いずれにせよこの米国人の乗客らに関し日本で陰性が出ていたという事実は無い。


5.「38%がコロナビールを買わないと回答」
→買わない理由は明示されていない

ある広告代理店のアンケート調査で、米国でビールを飲む人の38%が今はいかなる状況下でもコロナビールを買わないと回答したとして、複数のメディアが取り上げ話題になった(AFP通信CNNなど)。しかし、調査ではこのうちどれだけが普段コロナビールを飲む人であるかが明らかにされておらず、「38%」がコロナウイルスからの連想が理由の買い控えとは言い切れない。実際米国でコロナビールの売り上げは落ちていないという。


6.「北朝鮮初の感染者が射殺された」
→匿名ツイートが情報源

多くの海外メディアが取り上げたが、元はTwitterの匿名ユーザーによる投稿以外の情報源は無く、信憑性は疑問である。


その他

FIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)では新型コロナウイルスに関する情報の検証結果などをまとめた特設サイトを開設「感染予防にアオサが効果的」「再感染は致死的、2回目は死亡してしまう」など、国内外の真偽に疑義のある情報を紹介し、随時更新している。

また過去のまとめでは、新型肺炎関連の「中国人が日本の健康保険に悪乗りするため押し寄せる」「遺体を燃やすと出る二酸化硫黄が武漢で大量検出」「ウイルスは生物兵器」「お湯を飲めば死滅する」などの様々な誤情報についても検証を紹介している。

 

(この記事はINFACT(運営:NPOニュースのタネ)からの転載です。過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2020年3月11日の予定です)

著者紹介

大船 怜(Ofuna Rei)

NPOメディア「INFACT(運営:ニュースのタネ)」編集委員
1986年千葉県出身。2011年3月東日本大震災をきっかけにネットの誤情報等の検証・注意喚起を行うTwitterアカウントを開設。現在派遣社員として一般企業に勤めながら「ネット上の情報検証まとめ」(@jishin_dema)を運営している。大船怜はペンネーム。