《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.8)【大船怜】


インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。

(1)「ワクチン接種で子宮頸がんが77%減少」

日付
2018/10/14
発信者
片瀬ケイ(ジャーナリスト)
媒体
Yahoo!ニュース個人
拡散数
Twitterで3100RTなど
内容

 オーストラリアで行われている公費によるHPV(ヒトパピローマウィルス)ワクチン接種プログラムに関連する、「2028年、オーストラリアから子宮頸がんが消える? HPVワクチン接種と検診で、激減する子宮頸がん」と題する記事(キャッシュ)のうち、以下の記述(太字・注番号は原文通り。以下同様)。

ワクチン接種で子宮頸がんが77%減少

 オーストラリアがんカウンシルによれば、HPVワクチン接種の取り組みにより、HPVによる子宮頸がんは77%も激減し(*1)、(※引用後略)

【検証】正しくは「子宮頸がんの75%の原因となるHPV型が77%減少」 約1年前の記事を訂正

この記事は三原じゅん子参議院議員が引用したツイートが約3100RTを獲得したほか、実業家の堀江貴文氏もこれまで4度にわたってツイートし最大約600RTされている。

しかし記事掲載から1年余り経た今月14日、「子宮頸がんが77%減少」という記述は次のように訂正・追記された(訂正日は年が表記されておらず誤解の恐れがあるが、2019年である)。

ワクチン接種で子宮頸がんを起こすHPVが77%減少

 オーストラリアがんカウンシルによれば、HPVワクチン接種の取り組みにより、子宮頸がんを起こす型のHPVは77%も激減し、ビクトリア州における18歳以下の女子では前がん病変(子宮頸部高度異形成)がほぼ半減(*1)した。

【訂正】11月14日 12:27 オーストラリアの子宮頸がんに関する記載で、ワクチン接種により「子宮頸がんが77%激減」とあったのを、「子宮頸がんを起こすHPVが77%激減」と訂正しました。筆者の誤りでした。

また出典のオーストラリアがんカウンシルの原文を確認すると、子宮頸がんを起こすHPV型全てが減少したということではないので、訂正後の記述もやや不正確である。

Research studies have shown early signs of the vaccine’s success including:
・ a 77% reduction in HPV types responsible for almost 75% of cervical cancer
・ almost 50% reduction in the incidence of high-grade cervical abnormalities in Victorian girls under 18 years of age
(引用後略)

(筆者訳)
研究から、ワクチンの成功を示す早期の兆候として以下のことが分かりました。
・子宮頸がんの約75%の原因となっている型のHPVが、77%減少
・ビクトリア州の18歳未満の女子で、子宮頸部高度異形成の発生が約50%減少

(2)「ハワイアンズ日帰り旅行は市価約2万円」

日付
11/18
発信者
上念司(経済評論家)
媒体
Twitter
拡散数
6900RT
内容

練馬区日本共産党後援会が開催した日帰りバス旅行の費用に関して、「日本共産党疑惑のハワイアンズ日帰り旅行の詳細はこちらです。バス代、入場料、松花堂弁当で市価約2万円相当ですが、参加費はたったの9800円!」などとした投稿。

引用

【検証】2万円の計算根拠は誤解を含む

共産党練馬地区委員会のツイートによれば、旅行費用は「往復バス代、食事代、入館料、保険料含む」もので、昼食はハワイアンズの松花堂弁当だという。

上念氏は「市価2万円」の根拠を「ハワイアンズ公式の無料送迎バスのページから、バス代の通常料金12,340円、同サイトより通常入場料3,570円、価格.comで調べた松花堂弁当中央値約3,000円税込を加えたものです。1.9万円なんでざっくり2万円ということで。」と述べている

しかし、上念氏が当該ページを参照し「バス代の通常料金」としていたのは、JRの特急ひたちの料金(上野駅から最寄りの湯本駅までの通常料金。消費増税による改定の前のものと思われる)であり、バス料金ではない。ハワイアンズの入場料3570円は通常料金(大人)としては正しいが、10名以上の団体の場合は2860円となる。松花堂弁当も団体では1650円で提供されている。

ハワイアンズが案内している旅行各社の都内発日帰りバスツアー料金では、最も安い4980円から最大で9980円程度。食事・ショー・添乗員の有無や出発地などそれぞれ条件に違いがあり単純比較はできないが、いずれも往復のバス代と入場料は含まれているため、諸々の費用を合計しても上念氏の言う「市価2万円」に達するとは考えにくい。

なお余談だが、都内在住・在勤・在学の人は福島県への旅行で費用補助を受けられる制度もあるので、実際は上記の値段よりさらに安く済ませることも可能だ(共産党後援会の旅行にこの制度が適用されているかは不明)。


(3)「酒鬼薔薇聖斗が描いた絵」

日付
2017/12/29
発信者
一般ユーザー
媒体
NAVERまとめ
拡散数
160万view
内容

【画像】日本の死刑囚が獄中で描いた絵・絵画作品が凄すぎる!」と題したまとめで、「番外編」として1997年神戸連続児童殺傷事件の加害者男性(酒鬼薔薇聖斗)が描いた絵と紹介された画像。

【検証】絵は別人が描いたもの

このまとめは今月16日にタレントの春名風花氏がTwitterで紹介したことでも話題になった(現在は削除)。ツイートは約400RTされていた。

しかしこのツイートに対し17日、美術作家の梶谷令氏が自分が少年時代に描いた作品と名乗り出て、その証拠として下絵段階の原画も公開した。作品のタイトルは「元気なお婆ちゃん」で、作者のウェブサイトにも掲載されている。

なお、神戸連続児童殺傷事件の加害者男性は現在は医療少年院から出所しており、死刑囚ではない。


(4)「山中教授のiPS研究予算 いきなりゼロになってる」

日付
11/17
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
3.2万RT
内容
京都大学山中伸弥教授らが行っているiPS細胞研究に対する政府予算に関して、「なんで山中教授のiPS研究予算 いきなりゼロになってるの? この人はもともと医療畑の人で医療に役立つための細胞研究を主にやっているのだから宇宙レベルで予算割り当ててもいいくらいなんだけど?」などと書かれた投稿。

【検証】現状はまだ未定 2023年度からゼロ案も

このツイートの元になっているのは、iPS細胞研究予算に関する11日の記者会見での山中氏の「いきなり(政府の支援を)ゼロにするのが本当なら相当理不尽だ」という発言である。しかし、これは予算が既に「ゼロになっている」という意味ではなく、政府の大型予算が2022年度に終了予定で23年度以降の見通しが立っていないことに対する指摘だ。

18日付日本経済新聞(電子版)によると、山中氏は8月に内閣官房の官僚から「20年度から支援をゼロにする」と伝えられたという。その後、山中氏は自民党の議員に相談し、記者会見翌日の12日には予算を20年度から段階的に減らし23年度からゼロとする案が自民党内で決議された。

一方で、22日には萩生田光一文科相が「引き続き着実な支援を行う」と述べるなど、今後の方針はまだ流動的な状況だ。


(5)「秋葉原屋外広告に都の指導」

日付
11/19
発信者
wezzy
媒体
ニュースサイト
拡散数
Twitterで9000RTなど
内容

千代田区秋葉原でアダルトゲームの大型屋外広告が設置後数日で撤去た件に関連し、千代田区の環境まちづくり部担当者に取材した「秋葉原のアダルトゲーム屋外広告はなぜ撤去されたか。“オタクの街”の在り方と行政の対応」と題する記事(キャッシュ)のうち、以下の記述。

担当者:東京都の担当者が現地に赴き、有害な広告に対する措置が条項に含まれている「東京都青少年の健全な育成に関する条例」に明記されている「青少年に対して性的感情を刺激する」ものであると判断し指導、11月8日の午前中には撤去されました。千代田区としては、東京都の報告を受けて9日に現地を訪れ、確認と指導を行いました。

担当者:(※引用中略)そのため今回は、東京都の担当者と連携を取って、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」に基づいて広告物の内容を指導できるようにいたしました。

【検証】再取材で都の指導は否定 記事は訂正

東京都青少年の健全な育成に関する条例」は、「有害広告物」に対し知事が内容変更などの「必要な措置」を命じられるとする(第14条)が、そのためにはまず東京都青少年健全育成審議会の意見を聞く必要がある(第18条の2)。記事で都が行ったとされる指導はこの規定を無視するものではないかとして批判が巻き起こった。

一方、弁護士ドットコムの取材に対し、東京都の都民安全推進課は「表現の自由もありますので、直ちに広告を外せとか変えてくれという指導はしていません。条例違反であるかという判断をするとしたら、東京都青少年健全育成審議会にかける必要があります」と回答し、「指導」を否定した。また、都担当者に確認した栗下善行都議西沢圭太都議も、指導の事実は無いとの回答を得たという。

その後の22日、wezzyは記事を更新。都が指導を行ったとしていた千代田区担当者の回答部分を次のように訂正した。

千代田区担当者:東京都の担当者が現地に赴き、有害な広告に対する措置が条項に含まれている「東京都青少年の健全な育成に関する条例」に基づいて広告を確認し、店舗側や広告主側とも協議の結果したと聞いています。11月8日の午前中には撤去されたとのことでした。千代田区としては、東京都の報告を受けて9日に現地を訪れ、確認と指導を行いました。

千代田区が「東京都の担当者と連携を取って」指導できるようにしたとするくだりも削除され、さらに「『指導』などはしてはいません。あくまでも事実確認のみです」などとする都担当者への取材内容が大幅に追記された。

一方「千代田区としては、東京都の報告を受けて9日に現地を訪れ、確認と指導を行いました。」という記述には変更が無く、都とは別に千代田区の指導が行われたとする回答のままだ。ところが、上述の弁護士ドットコム記事では千代田区は「安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例」第14条に基づく指導を今後予定しているとされ、既に指導を行ったとするwezzyの記事内容と齟齬がある。これについて詳しい事実関係は不明だ。

(この記事はニュースのタネからの転載です。過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2019年12月4日の予定です)

著者紹介

大船 怜(Ofuna Rei)

NPOメディア「ニュースのタネ」編集委員
1986年千葉県出身。2011年3月東日本大震災をきっかけにネットの誤情報等の検証・注意喚起を行うTwitterアカウントを開設。現在派遣社員として一般企業に勤めながら「ネット上の情報検証まとめ」(@jishin_dema)を運営している。大船怜はペンネーム。