《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.57)【大船怜】


インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜ネット上の情報検証まとめ管理人)


(1)「ウィスコンシン州 開票率1%増の間にバイデン12万票増」

日付
11/4
発信者
複数の一般ユーザー、まとめブログなど
媒体
Twitter、まとめブログなど
拡散数
最大7900RT
内容
米大統領選ウィスコンシン州の開票で、開票率が94%から95%になる間にバイデン氏の得票のみが12万票増え、計算すると投票率が200%になるとする複数の投稿。
引用
※アカウント名等モザイク処理は筆者による

【検証】票の急増は不在者票の加算 急増前後の開票率も誤りか

投稿で参照されているウィスコンシン州のグラフ(左側)は、世論調査サイトFiveThirtyEightにサイトの記者が投稿したもの()。グラフでは現地時間4日午前4時頃にバイデン票が急増しているのが分かるが、その理由は記者が以下のように説明している。

Biden was down in Wisconsin before the Milwaukee absentee results came in early this morning. The boost pushed him up past Trump, but the race in this state is still very, very tight.
(筆者訳:ミルウォーキーの不在者投票の結果が早朝届くまで、ウィスコンシン州でバイデンは後れを取っていた。この急伸により彼はトランプを追い抜いたが、同州での争いはいまだ極めて接戦である。)

続く投稿でも、以下のように解説している()。

That weird-looking bump in the Wisconsin results is what happened when 170,000 absentee votes from the city of Milwaukee poured in all at once. It’s not nefarious. It’s just counting.
(筆者訳:ウィスコンシン州でのこの一見不思議な躍進は、ミルウォーキーの不在者投票17万票が一気に投入された時に起きた。何ら不正なものではなく、単なる集計の結果だ。)

米CBS放送の記者がミルウォーキーの不在者投票分の加算をレポートしたのは現地時間4日午前4時。グラフのバイデン票急増の時刻と一致する。

ウィスコンシン州最大の都市であるミルウォーキーは元々民主党が強い地盤を持つ土地な上、対立するトランプ大統領がかねてから郵便投票に強い不満を示していたこともあり、不在者投票での得票がバイデン氏に大きく偏ることは特別不自然とは言えない。

また、この間の開票率が94%から95%と1ポイントしか増えていないというのも誤り。前述のCBS記者はミルウォーキーの不在者投票分加算の直前の開票率を84%と伝えているし、発端のFiveThirtyEightのグラフにも6時23分時点での開票率89%という説明が付されている。そもそも各地の開票率は推計値に過ぎず、不在者投票の扱いなどによって多少の誤差も生じる。

詳細はハフポストBuzzFeedによる検証記事を参照。

なお、ミシガン州においてもバイデン票の急伸は不在者投票が要因と報道されている


(2)「怪しいので(ウィスコンシン)州兵が集計作業に参加」

日付
11/4
発信者
複数の一般ユーザー
媒体
Twitter、まとめブログなど
拡散数
最大5000RT
内容
同じくウィスコンシン州の開票で、不正選挙の疑いから州兵が集計作業に動員されたとする複数の投稿。

【検証】投票用紙の印刷ミス対応作業のため

ウィスコンシン州の開票場に20人の州兵が動員されたのは事実。しかし、その理由は不正選挙の疑いからではなく、不在者投票用の投票用紙に見つかった印刷ミスの対応のためだ。

期日前に見つかったこのミスにより、投票用紙約13500枚が機械で集計できなくなっていた。さらに、その対応策としての特例措置が裁判所に認められなかったため、ミスのある用紙に記入された票は投票終了後に手作業で正しい用紙に転記されることになった(参考12)。州兵が動員されたのはこの作業の補助のためである(参考)。

詳細は(1)と同じハフポストBuzzFeedの検証記事を参照。


(3)「バイデン氏がフロリダで『ハロー、ミネソタ!』と叫んだ(動画)

日付
11/2
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
800RT
内容
アメリカの俳優ジェームズ・ウッズ氏の投稿を引用し、「バイデンさんは『ハロー、ミネソタ!』と叫んでいます。問題は、ここはフロリダです(笑)。」とする投稿。

【検証】加工された動画 発言した場所はミネソタ

ウッズ氏の投稿はさらに別の動画付き投稿(削除済み)を引用。動画では米民主党の大統領選候補者バイデン氏が「ハロー、ミネソタ!」と挨拶しているが、背景や演壇には「Tampa, Florida(フロリダ州タンパ)」「Text FL to 30330(30330番にフロリダと書いて送信しよう)」という文字が見える。「30330」とはバイデン氏がキャンペーンで使用しているSMS(ショートメッセージサービス)の番号である。

しかし、これらの文字はCGによって加工されている。実際の文字はどちらも「Text MN to 30330(30330番にミネソタと書いて送信しよう)」で、映像の場所はミネソタ州セントポール(動画28分頃~)。従って、バイデン氏の「ハロー、ミネソタ!」という挨拶は何ら間違っていない。

Twitter、Facebook、InstagramなどのSNSでは、この加工された映像を使った投稿に警告ラベルを表示するなどして拡散を防ぐ措置を取っている。

詳細はロイター通信AFP通信PolitiFactなどによる検証記事も参照。


(4)「サムスン会長の手紙(画像)」

日付
10/26
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
900RT
内容
(翻訳) 昨日亡くなったサムスンのイ・ゴンヒ会長があなたに残した手紙」とする画像付きの投稿。
引用

【検証】サムスンが否定 数年前から出回った文章

画像中の文章は、「体の調子が悪くなくても毎年健康診断を受け、喉が渇いていなくても水をいっぱい飲み」や「人の価値は何が証明してくれるのかご存知ですか。それは健康な体なんです!」など、お金を稼ぐよりも健康と幸福が大切だと訴える内容で、10月25日に亡くなった韓国サムスン電子の会長イ・ゴンヒ氏の名前が記されている。

これは韓国のネット上で拡散された文章を投稿者が日本語訳したもの。しかし、サムスン側はこの手紙についてイ会長が書いたものではないと否定している

韓国のファクトチェックサイト、NEWSTOF検証によれば、この文章は少なくとも2018年には「ある富豪の手紙」として出回っていたという。

※この記事の調査には、インファクトの西村晴子が協力した。

(この記事はInFact(運営:NPOニュースのタネ)からの転載です。過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2020年11月11日の予定です)

 

著者紹介

大船 怜(Ofuna Rei)

NPOメディア「InFact(運営:ニュースのタネ)」コレスポンデント
1986年千葉県出身。2011年3月東日本大震災をきっかけにネットの誤情報等の検証・注意喚起を行うTwitterアカウントを開設。現在派遣社員として一般企業に勤めながら「ネット上の情報検証まとめ」(@jishin_dema)を運営している。大船怜はペンネーム。