インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜=ネット上の情報検証まとめ管理人)
今週紹介する“要注意”情報
|
(1)「かほく市ママ課『独身税』提案」
日付
|
3/5 |
発信者
|
一般ユーザー |
媒体
|
拡散数
|
4.1万RT | |
内容
|
「ママ課『独身税』提案」と題した新聞記事の写真を添付し、「独身のみなさん、時が来ました」などとコメントした投稿。 | ||
引用
|
【検証】2017年の記事 現在まで具体化は無し
この記事は元々2017年8月北國新聞に掲載されたもの(キャッシュ)で、「時が来ました」という投稿者のコメントに反し、かなり古いニュースである。
記事では、子育て中の女性たちによる石川県かほく市のプロジェクト「かほく市ママ課」のメンバーが、財務省の阿久澤孝主計官(当時)と意見交換を行ったことを伝えている。その中でメンバーの1人が「結婚し子を育てると生活水準が下がる。独身者に負担をお願いできないか」と質問し、阿久澤氏が「確かに独身税の議論はあるが、進んでいない」と答えたと記事では伝えられている。
2017年当時もこの記事は話題になり、「独身税」に対する多くの批判が巻き起こった。ねとらぼの取材に対し市は、「ママ課」メンバーの発言は提案と呼べるレベルのものではなかったとし、またそもそも「ママ課」は市の行政機関ではなく任意ボランティア団体だと説明。ハフポストにも「発言の一部を切り取られた」と説明している。
翌9月、市はHP上にお知らせを掲載。「新聞記事に掲載されました趣旨の発言があったことは事実」としつつ、「かほく市および市行政全体として、国に対して独身税を提案するものではありませんし、今後も提案する予定は全くありません。」と述べている。
「ママ課」メンバーや財務省主計官の実際の発言がどのようなものであったかは必ずしもはっきりしないが、少なくとも現にその後現在まで「独身税」に関する具体的な進展は特に見られない。
(2)「反安倍ツイデモの発信元を追跡した結果」
日付
|
3/7 |
発信者
|
沓沢亮治(東京都・豊島区議) |
媒体
|
拡散数
|
2.2万RT | |
内容
|
「とあるサーバー管理者さんからご連絡 安倍やめろ ツイデモ発信は東京一極だったが細かく追跡した結果、そのほとんどが次の3つのIPアドレスからだった」として、韓国関連の団体の名前を挙げた投稿。 |
【検証】第三者が追跡は非現実的
「細かく追跡」というのが具体的にどのような方法なのか沓沢氏は説明していないが、Twitter投稿の発信元IPアドレスを第三者が入手することや、IPアドレスから具体的な団体名を導き出すことは通常不可能である。このことは匿名掲示板「2ちゃんねる」(現「5ちゃんねる」)の元管理人・西村博之氏が疑問を呈するなど、専門的観点から多くの指摘がある。
発信元IPアドレスは通常、その投稿によって被害を受けた当人が権利を行使し裁判手続きによって開示されるが、「ツイデモ発信」によって被害を受けたわけではない第三者である沓沢氏がこのような方法でIPアドレスを知ることはできない。
また仮にIPアドレスを入手したとしても、その使用者を特定するにはアドレス管理者が元々使用者を登録しているか、プロバイダーに開示を求める必要がある。開示にはやはり裁判手続きが必要なのが通常で、これも第三者が入手できる可能性は薄い。
詳細は弁護士ドットコムの検証を参照のこと。
(3)新型コロナウイルス関連特集
以下、新型コロナウイルス(新型肺炎)に関連する“要注意”情報のうち、主要なものを簡潔に紹介します。(順不同)
1.「クルーズ船乗客カナダ人『高待遇だった』」
→下船後の病院についての言及
クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の元乗客で検査で陽性となり病院で過ごしていたカナダ人が、カナダの公共放送のCBCインタビューに答えた映像を引用し、「日本メディアの報道とは全く違う高待遇だったと発言」とするツイートが拡散。メディアでは連日船内の過酷な状況が伝えられていたためあたかも船内が高待遇だったとの意味にも読めるツイートだが、実際はこのカナダ人は「really quite comfortable unlike the ship(船と違ってそこ[=病院]は快適だった)」と、下船後の病院での待遇について語っている。
病院での待遇を批判するような日本メディアの報道は特に目立っておらず、投稿者の意図は定かでない。
- Canadian with coronavirus speaks from Japan (CBC、3分1秒から当該の発言シーン。)
2.「新型コロナの報告を聞きながら女性を撫でるWHO幹部」
→2018年の無関係の会合か
この動画の背景に映る縦書きの文言は、2018年6月に河北省の巨鹿県で行われたビジネス・文化に関する会合のテーマ(「花开正逢时 巨商谋共赢 杏福新时代」)であるように見える。また椅子や机などの様子も、この会合のものとよく似ている。画面端に映る人物の半袖姿も、新型コロナウイルス流行後のここ数ヶ月の映像としては不自然で、諸々考慮すればこれは新型コロナウイルスとは無関係の映像である可能性が高い。
Annie Labの取材によれば、映像の人物はアメリカの天体物理学者ジョージ・スムート氏。WHOとは関係無く、撫でていたのは背中を痛めていた彼のパートナーだという。
- False: This video does not show a WHO official or Australian politician touching a female conference attendee in China (Annie Lab)
- 中国梦网、中国好食品助力巨鹿红杏商务节 共谋新发展 (河北新闻网)
3.「休校反対の小学生投書が死語だらけ」
→普通の文章を改変したもの
首相の要請により現在小中高校のほとんどで休校措置が実施されているが、これに反対する内容の12歳の小学生の新聞投書について、東京都豊島区議の沓沢亮治氏が「ある日の朝日新聞社説 『安倍総理大臣様、ぼくは”ナウ”で”ヤング”な”ガラスの少年時代”の小学6年生です。(中略)』書いたのオッサンでしょ。」などとTwitterに投稿した(キャッシュ)。
しかし実際の投書の文面はこれと全く異なり、「ぼくは、小学6年生です。」のようなごく普通のものである。沓沢氏の投稿には実際の正しい投書の写真が添付されており、これを見てさえいれば「”ナウ”で”ヤング”」といった文章が創作だということは明らかである。投稿が冗談のつもりだったのか沓沢氏の意図は定かではないが、後に特に説明無く削除されている。
- (声)なぜ休校、ぼくは学校に行きたい (朝日新聞)
- <公職者による拡散例>沓沢亮治氏(東京都豊島区議)
4.「つくば市給食 1万食以上のロスが出る」
→市は否定
休校要請に対し茨城県つくば市は希望者のみ自由登校という独自の方針を取っているが、この際提供される給食について「今後、毎日2万人分作り、1万食以上のロスが出る」といった噂が拡散。市は給食の希望数を調査したうえで提供し、休校中に2万食作り続けることはないとしている。
- 《新型肺炎》つくば、休校中登校開始 給食巡るデマに市長「悪意ある」と一蹴 (茨城新聞)
- つくば市公式Twitterアカウントの投稿
5.「最初の発生源は中国でないという論文」
→海鮮市場でない可能性のみの指摘 論文は査読前
ゲノム分析に基づいて新型コロナウイルスの変異の過程を推測した論文を引き、「最初の発生源は武漢でないどころか、中国ではない」としたツイートが拡散。しかし実際の論文は、当初ウイルスの発生源として注目されていた武漢の海鮮市場について、他のどこかから入ってきた(imported from elsewhere)可能性があるとしているだけで、発生源が中国でないという主張はしていない。
またこの論文はプレプリントと呼ばれる、第三者による内容の検証(査読)をまだ経ていない状態のものである。
- Decoding evolution and transmissions of novel pneumonia coronavirus (SARS-CoV-2) using the whole genomic data (ResearchGate)
- 台湾专家:根据一篇论文可以得出新冠病毒源头是美国? (较真查证(中国・テンセントによるファクトチェックサイト))
6.「○○の社長・会長が感染」
→事実無根の噂が多数拡散
静岡市のねじ製造メーカー、長野県松本市の建築会社、香川県のスーパーなどで、それぞれ社長や会長を感染者とする噂が拡散。いずれも発表された感染者とは年齢等の属性が異なり、事実無根と当人が否定している。
- 「感染者は社長」デマ拡散 興津螺旋、ツイッター削除求める (静岡新聞)
- 「風評被害に怖さ感じる」 松本の会社社長、新型肺炎「感染者」とのデマ拡散される (信濃毎日新聞)
- “感染”とうその情報を流された男性「拡散に怖さ感じた」 (NHK)
- 〈新型コロナ〉「感染者がいる」とのデマを本人が否定 高松市のスーパーは風評被害で売り上げ減 (KSB瀬戸内海放送)
7.「HIKAKINがトイレットペーパー買い占め」
→4年前の動画
マスク不足をきっかけに起きた「トイレットペーパーも不足する」という誤解は、ユーチューバーのHIKAKIN氏に対する誤ったバッシングにも発展。大量のトイレットペーパーと共に映った動画のキャプチャ画像が拡散されたが、この動画は2016年のもので、今回の買い占め騒動とは全く関係が無い。
8.「花崗岩がウイルスに効果」
→専門家が否定
ウイルス対策に効果があるかのような噂を元に、フリマアプリなどで花崗岩が相次いで高額出品される事態が起きている。花崗岩はどこにでもあるごく普通の種類の石で、ウイルスへの効果に科学的な根拠は無い。
その他
FIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)では新型コロナウイルスに関する情報の検証結果などをまとめた特設サイトを開設。国内外の真偽に疑義のある情報を紹介し、随時更新している。
また過去のまとめでは、新型肺炎関連の「中国が『日本新型コロナウイルス』と名付けている」「トイレットペーパー不足デマの出所はこの人物」「ウイルスは生物兵器」「お湯を飲めば死滅する」などの様々な誤情報についても検証を紹介している。
(この記事はINFACT(運営:NPOニュースのタネ)からの転載です。過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2020年3月18日の予定です)
大船 怜(Ofuna Rei)
NPOメディア「INFACT(運営:ニュースのタネ)」編集委員
1986年千葉県出身。2011年3月東日本大震災をきっかけにネットの誤情報等の検証・注意喚起を行うTwitterアカウントを開設。現在派遣社員として一般企業に勤めながら「ネット上の情報検証まとめ」(@jishin_dema)を運営している。大船怜はペンネーム。