【ファクトチェック白書2024】はじめに


ファクトチェック白書2024の公表について

「嘘は空を飛び、真実はかなり遅れて嘘を追いかける。人が騙されてはいけないと思ったときにはもう手遅れだ。戯れは終わり、嘘の話が効果を発揮している」

これは、『ガリバー旅行記』で知られるイギリスの風刺作家、ジョナサン・スウィフトが1710年、政治評論紙『The Examiner』に書き記した警句です。

300年以上前に「嘘の拡散力と影響力」に警鐘を鳴らしたスウィフトの言葉は、今の時代、さらに深刻に受け止められるべきものとなっています。インターネットとソーシャルメディアの普及により、膨大な情報が真偽不明のまま瞬時にネットに広がっています。偽情報や誤情報が社会に与える影響や混乱が現実に発生し、その対応策が切実に求められています。

ファクトチェックは、このような偽・誤情報の問題に対処するための重要な手段の一つです。ファクトチェックとは、情報や言説の真偽を第三者が検証し、その結果を公表する活動を指しています。偽・誤情報の拡散を防ぎ、正確な情報を提供することで、民主主義社会における人々の健全な判断を支えることが期待されます。

今回公表した『ファクトチェック白書2024』は、日本と世界のファクトチェックの取り組みについて、その歴史、現状、課題について包括的に記述した初めての報告書になります。

この白書の作成は、2017年に設立されたファクトチェック支援・推進団体である特定非営利活動法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)と、早稲田大学次世代ジャーナリズム・メディア研究所(INGJM)が共同して作業にあたりました。FIJは、主に日本および世界のファクトチェックに関する資料・データの収集・整理と執筆を担当しました。INGJMは、世界各地のファクトチェック関連組織の現地調査や関係者を招いての講演会・シンポジウム開催、FIJがファクトチェックメディアに提供している疑義言説データベース(ClaimMonitor)に蓄積されたデータの分析などを担当しました。

なお、今回の調査と白書作成作業は、公益財団法人トヨタ財団の助成金(先端技術と共創する新たな人間社会)、および科研費・基盤研究(B)(19H04425)の支援を受けて実施することができました。記して深く感謝申し上げます。

ファクトチェック白書2024が、ファクトチェックの重要性・必要性と現時点での課題について理解を深める一助となり、さらなる活動の推進につながることを願っています。

2024年6月

特定非営利活動法人 ファクトチェック・イニシアティブ理事長
早稲田大学次世代ジャーナリズム・メディア研究所長
瀬川 至朗

 

補足説明

・偽情報、誤情報の定義(※)と表記について

偽情報(Disinformation):主に政治的あるいは経済的な理由で意図的に流布される虚偽の情報。災害時に愉快犯的に流される虚偽の情報もある。
誤情報(Misinformation):不注意などが理由で意図することなく流布される誤った情報や誤解を招く情報。

(※)意図の有無を問わず事実と異なる情報をすべて誤情報とする考え方もあり、その場合、偽情報は誤情報のサブセットになる。本報告書では、上記定義のように意図の有無で偽情報と誤情報に分けており、事実と異なる情報や誤解を招く情報全体を「偽情報と誤情報」、「偽・誤情報」などと表記している。

 

・「フェイクニュース」の表記について

「フェイクニュース(fake news)」という言葉は、2016年のアメリカ大統領選以降に広く世界で使われるようになっているが、その言葉の定義が曖昧であることが指摘されている。本報告書では、UNESCOが2018年に公開したジャーナリズム教育研修ハンドブックである”Journalism, ‘Fake News’ and Disinformation”に倣って「フェイクニュース」と表記し、基本的には偽情報、誤情報という用語を用いる。なお、UNESCOのハンドブックは、引用符付きにした理由を以下のように説明している。

タイトルと各章で「フェイクニュース」という言葉を使うかどうか議論があった。「フェイクニュース」は今日、ニュースの形を偽装し拡散する、虚偽で誤解を招く情報というレッテル以上のものになっている。それはジャーナリズムを弱体化させ信用を失わせるための感情的で武器化された言葉になっている。このため、偽情報、誤情報、「情報障害(Information Disorder)」という用語が推奨される。(同書14頁)

URL : https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000265552

 

・本報告書記載の範囲について

 本報告書に記載した情報は基本的に2024年3月までのものである。
出典のウェブサイトは、特記なき限り2024年6月15日時点の内容をもとにしている。

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