《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.46)【大船怜】


インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜ネット上の情報検証まとめ管理人)


(1)「PCR開発者がウイルスの特定にふさわしくないと言っている」

日付
7/24
発信者
武田邦彦(工学者)
媒体
ネット番組
拡散数
YouTubeで70万回再生
内容
インターネット番組『真相深入り! 虎ノ門ニュース』での、「PCR法を開発したノーベル賞を取った人がウイルスの特定にはふさわしくないと言っている」とする発言。

【検証】「ウイルスの数の推定には適さない」を誤解か

新型コロナウイルス感染症の陽性確認にも使われているPCR法は生化学者キャリー・マリス氏(故人)によって開発され、マリス氏はこの功績から1993年にノーベル化学賞を受賞している。その開発者自身が「ウイルスの特定にふさわしくない」などとPCR法の有効性を否定するような発言をしたとする主張は、この武田氏の発言以外にも以前からネット上に散見される。

しかし、マリス氏によるそのような発言は存在が確認できない。海外では同様の主張で、米紙「New York Native」(1997年廃刊)の1996年の記事が根拠として挙げられているが、実際にはそこでマリス氏はPCR法について「その性質上、(ウイルスの)数を推定するのには適していない」と述べているに過ぎない。

詳細は、インファクト別稿ロイター通信の検証記事も参照。


(2)「米国製コロナワクチン治験でウクライナ軍兵士ら5人死亡」

日付
7/24
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
2000RT
内容
海外記事を紹介し、「アメリカ製コロナウイルスのワクチンでウクライナ人5人が死亡」などとする投稿。
引用

【検証】軍や病院が否定

記事の主張によれば、ウクライナの都市ハリコフで、新型コロナウイルスに感染したウクライナ軍兵士10人を含む15人にアメリカ製のワクチンが試験投与されたが、その後症状が悪化するなどして、兵士4人を含む5人が死亡したという。同様の内容は、ウクライナからの分離独立を主張する親ロシア派組織「ルガンスク人民共和国」の民兵団の発表として、複数の親ロシア系サイトから発信されている。

しかし、AFP通信やウクライナのファクトチェックサイトStopFakeの取材に対し、ウクライナ軍やハリコフ軍病院はこれらの主張を否定している。ワクチンが兵士に投与された事実は無く、国外の専門家が軍に出入りしたことも無いという。

そもそもワクチンとは予め接種することでウイルスに対する免疫を身に付けるのが目的で、既にウイルスに感染した人にワクチンを投与するのは試験方法として不自然である。


(3)「山手線 中国語・韓国語の表記を廃止」

日付
8/7
発信者
大澤昇平(工学者)
媒体
Twitter
拡散数
4600RT
内容
JR山手線の車内モニターの写真とともに、「【朗報】山手線、中韓国語の表示を廃止」とする投稿。
引用

【検証】山手線は元々日英のみ

BLOGOSの取材に対しJR東日本は「山手線に限らずJR東日本の電車内モニターの駅名表示はもともと一律で日本語と英語の表示のみになっている」としており、中国語や韓国語の表示が「廃止」になったというのは正しくない。

山手線駅構内の案内や、東京メトロの車内モニターなどで中国語・韓国語の表示が一部で採用されており、そのことと混同されたようである。


(4)「zoomのマナー本 開始5分前にルームに入る…等」

日付
7/28
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
3800RT
内容
西出ひろ子著『超基本 テレワークマナーの教科書』に言及し、「zoomのマナー。 会議の開始の5分前にはルームに入りましょう。 終わるときは深々と頭を下げながら会議終了ボタンを押す。 お客様より先に退出してはいけません」とする投稿。
引用

【検証】そのような記述は実在せず

投稿者はこれらの「マナー」が『テレワークマナーの教科書』の実際の記述なのか明記しておらず、単に冗談の可能性も否定できない。しかし、その後ニュースサイト「ゴゴ通信」がこれらの「マナー」が同書に実際書かれているかのように紹介(キャッシュ)。それがさらに他のまとめサイトに転載される等して拡散された。

しかし、同書はそもそも9月の出版予定で、現在は発売前である。プレスリリースでは「オンラインミーティングの入室は1分前でOK」「『先に入室していないから失礼だ』などとお互いが思わないこと。それが真のマナーです。」などと、拡散された「マナー」とは相反する内容が紹介されている。

ねとらぼの取材に対し、出版元のあさ出版も同書でのそのような記述の存在を否定している。


(5)「温泉の炎上マーケティング 半年先までいっぱい」

日付
8/13
発信者
田端信太郎(実業家)
媒体
Twitter
拡散数
900RT
内容
群馬県・万座温泉の旅館「万座亭」に関する騒動について「田端大学で請け負った万座温泉の炎上マーケティングだよ」とする投稿、および「なんか、このご時世にあの温泉旅館、半年先までいっぱいになったらしいですよwww」などとする投稿

【検証】旅館は否定 現在も空室あり

田端氏の投稿の背景にあるのは、10日に別の人物がこの旅館の食事について「多すぎて到底食べきれない」「廃棄前提」などとTwitterに投稿し炎上したという騒動。この人物が田端氏の運営するオンラインサロン「田端大学」の関係者であったことから、炎上は田端氏にも飛び火していた。

別の一般ユーザーが「廃棄前提おじさんのdisったお宿が半年先まで予約でいっぱいになった」などとした投稿(削除済み)も、約3万RTされている。

旅館は公式HP上で「SNSで取り沙汰されている件につきまして、当宿で宣伝目的の依頼などは一切しておりません」と表明し、「炎上マーケティング」を否定。ねとらぼデイリー新潮の取材に対しても、「炎上マーケティング」「半年先まで予約でいっぱい」ともに強く否定している。実際の空室状況を見ても、部屋タイプにもよるが、記事執筆時点で半年以内の予約は可能である。

田端氏はその後「嘘を嘘と見抜ける人じゃないと、Twitterやっちゃダメなんだぞ!」「万座亭さんから依頼を受けたなんて、誰も言ってないのにw」など否定する投稿も行っている。


その他

FIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)では新型コロナウイルスに関する情報の検証結果などをまとめた特設サイトを開設。国内外の真偽に疑義のある情報を紹介し、随時更新している。

また過去のまとめでも、新型コロナウイルス関連の様々な誤情報についても検証を紹介している。

 

(この記事はInFact(運営:NPOニュースのタネ)からの転載です。過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2020年8月26日の予定です)

 

著者紹介

大船 怜(Ofuna Rei)

NPOメディア「InFact(運営:ニュースのタネ)」コレスポンデント
1986年千葉県出身。2011年3月東日本大震災をきっかけにネットの誤情報等の検証・注意喚起を行うTwitterアカウントを開設。現在派遣社員として一般企業に勤めながら「ネット上の情報検証まとめ」(@jishin_dema)を運営している。大船怜はペンネーム。