インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜=ネット上の情報検証まとめ管理人)
今週紹介する“要注意”情報
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(1)「法改正で養育費を支払わず逃げたら刑事罰に」
日付
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1/15 |
発信者
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一般ユーザー |
媒体
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拡散数
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4.9万RT | |
内容
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「令和2年4月1日より 養育費を支払わず逃げた場合6ヶ月以下の懲役、50万円以下の罰金となります。 勿論【前科】になります。」などとする投稿。 |
【検証】厳罰化は虚偽陳述や裁判所不出頭などの場合
投稿は今年4月1日より施行される「改正民事執行法」について述べたものと思われる。この改正は養育費に限らず債権回収全般についてその実効性を高めるためのものだが、厳罰化されたのは「財産開示手続き」に対する不出頭等の行為であって、「養育費を支払わず逃げた場合」の全てが罰則の対象となるわけではない。
「財産開示手続き」とは、裁判所の判決などにより債務を支払う義務を負っている人がこれを無視した時に、強制執行のため財産情報を開示させる手続き。財産開示手続きが申し立てられた場合、今回の改正では「陳述すべき事項について虚偽の陳述をした者」や「執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓を拒んだ開示義務者」などに6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が科されるようになる(第213条)。改正前は30万円以下の過料という行政罰だった。
したがってたとえ養育費が不払いであっても、財産開示手続きが行われていない場合や、手続きに応じ正当な対応を取った場合は刑事罰にはならない。
詳細は法務省資料(第1-2)のほか、弁護士ドットコムの解説なども参照のこと。
なお、上掲の投稿者はその後に「罰則に関しては財産開示の際の隠蔽、嘘などついた場合、裁判所へ出頭しなかった場合に適用されるようです」などとして訂正している。
(2)「緑色のヘルプマークは困っていたら助けますよのサイン(画像)」
日付
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1/16 |
発信者
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一般ユーザー |
媒体
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拡散数
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6600RT | |
内容
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外見で分からない障害を持つ人などが配慮を求める印である赤いヘルプマークに関連して、「緑色のヘルプマークは 困っていたら助けますよのサインです」などと書かれた画像付きの投稿。 | ||
引用
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【検証】実用化しておらず、東京都の見解は「著作権侵害」
投稿では「緑色のヘルプマーク」が既に存在するように語られているが、少なくとも現段階でこのようなデザインのマークが実用化されているわけではない。
画像は元々2019年9月に他のユーザーが投稿したものと同一で、静岡市の小学生が「逆ヘルプマーク」を発案したというニュース(参考リンク1、2)を元に、既存の赤いヘルプマークの画像を加工したもの。この時の投稿者は画像が「フォトショップ加工」であることを明記している。
また、当サイトが東京都福祉保健局に取材したところ、担当者は「ヘルプマークの著作権は東京都にあり、同じデザインで別の色のものを作って頒布することは著作権上認められないし、本来のヘルプマークと混同の恐れもあるので推奨できないという立場。緑色の逆ヘルプマークがメディアやネット上で広まったことは承知しているが、実際に作られたり、実用化しているという話は聞いていない」と話している。
赤いヘルプマークは、東京都が援助や配慮を必要としている人のために考案し、全国各地の自治体が普及を推奨しているもので、デザインの著作権は東京都に帰属し、商標登録もされている(東京都福祉保健局の「ヘルプマーク作成・活用ガイドライン」参照)。
なお、配慮が必要な人を手助けする意思を示すマークとしては、学生など民間の団体による「サポートハートマーク」や「マゼンタ・スター」があり、実際に制作や配布・販売なども行われている。「困っていたら助けますよのサイン」として拡散されたものと趣旨は共通しているが、都のヘルプマークとは異なる独自のデザインを採用している。
(3)「朝日新聞、水族館の深海ザメにフラッシュ→その後死亡」
日付
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1/19 |
発信者
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ラビット速報(まとめサイト) |
媒体
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Web記事 |
拡散数
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Twitterで1.7万RTなど |
内容
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「朝日新聞、水族館の『生きた化石』の深海のサメにフラッシュを炊いてしまう。→その後死亡」と題した記事(キャッシュ)。 | ||
引用
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【検証】水族館がフラッシュ許可 死亡との関連にも否定的
「ラビット速報」の記事では、ライブドアニュースに転載された朝日新聞の記事「『生きた化石』ラブカを捕獲 水族館で展示後に死ぬ」のスクリーンショット画像を掲載。朝日記事には当初フラッシュ撮影された深海ザメ・ラブカの写真が掲載されていたが、「ラビット速報」では「騒ぎになって写真が入れ替えられ」たとしているほか、この撮影が原因でラブカが死んだと示唆するコメントも多数掲載している。
同様の内容はまとめサイト「ツイッター速報」にも取り上げられ(キャッシュ)、Twitterで最大約1900RTされている。
J-CASTニュースは、朝日新聞と、ラブカを展示していた水族館の双方に取材。朝日の担当者はフラッシュ撮影の事実を認めたが、あくまで水族館の指導に従ったものと説明。写真の差し替えに関しては、当初の写真でラブカの体が半分しか入っていなかったため「体全体に写っているものに変更」したとしていて、実際フラッシュ撮影された写真は現在も朝日新聞のサイト上で順番を変えて掲載されている。
水族館側も、記録を優先しマスコミによるフラッシュ撮影をあえて止めなかったと回答。さらに「たとえフラッシュ撮影がなかったとしても、長く生きなかった」「ラブカはフラッシュ撮影ですぐに死ぬほど敏感ではない」との見解で、フラッシュ撮影とラブカ死亡との因果関係には否定的だ。
同様にフラッシュ撮影されたと見られる別の写真は読売新聞にも掲載されていて、「朝日を含めマスコミ数社がフラッシュ撮影をしていた」という水族館側の説明と一致している。
(4)「『通告です』と明言しないと児童相談所は一切動けない」
日付
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1/19 |
発信者
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一般ユーザー |
媒体
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拡散数
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4.6万RT | |
内容
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「通告Q&A」のポスター画像とともに、「被虐待児童を児童相談所に通報する場合、冒頭で、 『通告です』 と明言すること。」「『相談』や『連絡』等と言われてしまうと児童相談所は一切動けない。」などとする投稿。 | ||
引用
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【検証】児相への連絡は明言しなくても「通告」扱い
ねとらぼによると、厚労省の家庭福祉課の担当者は取材に「連絡があった場合、(電話の冒頭で『通告』と言われたかどうかにかかわらず)内容や状況を丁寧に聞き取り、対応を決めることになる」と回答。
上掲の投稿者が添付した日工組社会安全研究財団作成のポスターにも、「通告」とは「虐待を受けたと思われる児童を発見した場合に、その内容を児童相談所等に『連絡』すること」と明記されている。
厚労省による「児童相談所運営指針」では、「虐待に関する通告は、必ずしも通告という形でもたらされるとは限らず相談・情報提供等の形態でもたらされることも多いことから、外部からの個人を特定できる虐待に関する情報(中略)については、すべて虐待通告として、(中略)対応を組織的に協議すること。」と定めている(第3章第2節の6)。
詳細は元児相職員の家族問題カウンセラー・山脇由貴子氏の解説も参照のこと。
(この記事は「INFACT(運営:ニュースのタネ)」からの転載です。過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2020年1月29日の予定です)
大船 怜(Ofuna Rei)
NPOメディア「INFACT(運営:ニュースのタネ)」編集委員
1986年千葉県出身。2011年3月東日本大震災をきっかけにネットの誤情報等の検証・注意喚起を行うTwitterアカウントを開設。現在派遣社員として一般企業に勤めながら「ネット上の情報検証まとめ」(@jishin_dema)を運営している。大船怜はペンネーム。