《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.45)【大船怜】


インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜ネット上の情報検証まとめ管理人)


(1)「中国からの謎の種子はジャイアント・ホグウィード」

日付
8/1
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
1.7万RT
内容
中国から郵送されてくる謎の種子は 『ジャイアント・ホグウィード』と判明。 樹液が皮膚につくと火傷のようにかぶれる猛毒。」などとする投稿。

【検証】特徴が異なり根拠不明

6月から7月頃にかけ、海外や日本で、中国から発送されたと見られる身に覚えの無い小包の中に正体不明の植物の種子が入っていたという事例が相次いだ。発送者の意図やこれが何の植物かが未だ定かではない中、種子の正体は「ジャイアント・ホグウィード」という有毒植物ではないかという憶測が多数拡散。その中にはエッセイストの竹内久美子氏や工学者の大澤昇平氏など、著名人の投稿もある。

ジャイアント・ホグウィードはセリ科ハナウド属の植物。樹液が有毒で、皮膚に触れるとやけどなどの症状を引き起こすことがある(ただしネット上で出回っている被害画像は出典不明で真偽の定かでないものが多い)。なお、種子は樹液を含まないため、触っても被害の可能性は低い。

その種子の写真はカナダ食品検査庁のサイトで見ることができる(正確には果実で、中に種子が入っている)が、これまでに国内外で報告されている「謎の種子」の写真とはいずれも見た目の特徴が異なる。例えば、ネット上で根拠の一つに挙げられた神奈川県三浦市に届けられた種子(果実)の写真について、日本植物分類学会はJ-CASTニュースの取材に「形態的特徴からコリアンダーの可能性が高い」「明らかにハナウド属ではない」と回答している。

アメリカの農務省動植物検疫所は7月29日、全米各地に届けられた「謎の種子」について一部の分析結果を公表(音声記事)。キャベツやハイビスカスなど一般的な食用・園芸用植物の名前が挙げられているが、その中にジャイアント・ホグウィードは含まれていない。その後も現在までに、有毒植物と判明した例は国内外で報告されていない。

詳細は上掲のJ-CASTニュースや、台湾ファクトチェックセンター日本語要約)の検証記事を参照。


(2)「野党の国会開催要求 正当なプロセスを踏んでない

日付
8/5
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
6700RT
内容
国会が「今開かれてないのは『野党が口頭で国会開催を要求してるだけで正当なプロセスを何も踏んでないから』」などとする投稿。

【検証】法律に定めた要求書を提出済み

立憲民主党など複数の野党は、新型コロナウイルスや豪雨災害への対応の必要性から臨時国会を早期に召集すべきと主張。これまでのところ政府・与党側はこの「早期召集」の要求に応じていないため、野党らは「いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」と定めた憲法第53条に反すると批判している。

「要求」の具体的方法については、国会法第3条が「臨時会の召集の決定を要求するには、いずれかの議院の総議員の四分の一以上の議員が連名で、議長を経由して内閣に要求書を提出しなければならない。」と定めている。

7月31日、立憲民主党ら野党4党は、賛同する衆議院議員131名の名簿とともに臨時国会召要求書を大島理森衆院議長に提出。衆議院の総議員数は465人のため「四分の一以上」を満たしており、要求書が大島議長から内閣へ送付されたことも官報から確認できる。

以上から、野党の国会開催要求は憲法や法律に定められた「正当なプロセス」に従っていると言える。上掲の投稿者に対し立憲民主党は、Twitter公式アカウントから「『口頭で要求している』のではなく、正式に要求をしています。」「デマは削除願います。」などと直接返信し抗議している。

詳細は、BuzzFeedの検証記事も参照。


(3)「真夏の北半球でコロナ急増の先進国は米国の一部と日本くらい

日付
8/3
発信者
上昌広(医師)
媒体
Twitter
拡散数
1.1万RT
内容
真夏の北半球でコロナが急増している先進国は、トランプを支持する米国の一部と日本くらいです。」とする画像付きの投稿
引用

【検証】日本と外国で尺度が違う グラフに無い国で増加も

上氏のこの投稿は、立憲民主党の参議院議員・蓮舫氏にも引用ツイート(削除済み、キャッシュ)されるなどして拡散。しかし、内容については複数の観点からミスリーディングとの指摘が相次いでいる。

特に強く批判されているのが、同一グラフ上に重ねて表示されている日本(棒グラフ)と外国(折れ線グラフ)の感染者数に、異なる尺度の縦軸が使われている点だ。日本の10万人当たりの新規感染者数は左側の目盛りに従い0~12人の範囲で表示されているが、外国は右側の目盛りで0~140人の範囲。グラフ上で同じ高さに見えても、実数は日本と外国で10倍以上の開きがあることになる。

上氏はその後「PCR検査数が違うため実数の比較可能性はありません。ただ、同じ国で時間軸の比較は可能です。日本だけ増加しているのは明らかです。」などと断った上で、再び同じグラフを投稿。しかし、この時には右側の外国の目盛りも削除され、さらに実数の差が分かりにくくなっている。

BuzzFeedでは、医師の木下喬弘氏や疫学者の鈴木貞夫氏作成による、縦軸を同じ尺度に統一したグラフを紹介。これを見るとフランスなど他国でも同時期に感染者数の増加傾向が見られ、「日本だけ増加している」というのは説得力に欠ける。また、スペインのように特に増加が著しい国が上氏のグラフに含まれていない点も問題として指摘されている。

上氏はさらに「ビジネスジャーナル」9日掲載の寄稿記事でも同じグラフを使用。こちらでは「真夏の北半球で感染者が増加している先進国は少ない。G7では米国と日本くらいだ。」としていて、G7以外で増加している国があることに含みを持たせたようにも読める。


(4)「ドイツの高校では週2回無料で検査」

日付
8/6
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
2900RT
内容
ドイツの高校では一週間に2回、無料で新型コロナの唾液検査をしてます」とする投稿。
引用
※アカウント名等モザイク処理は筆者による

【検証】ある1つの高校での取り組み

同様の内容は7日に、衆議院議員で国民民主党代表の玉木雄一郎氏も投稿している。

投稿の文章ではあたかもドイツ国内の全ての高校でこうした検査が行われているかのように読めるが、実際はそうではない。出典としてリンクされているフランスのニュースネットワーク「France 24」による5月30日付の記事によれば、これは「ドイツ北部・ノイシュトレーリッツのある高校(a high school in Neustreltiz, northern Germany)」での話に過ぎない。

この取り組みはドイツのある医療関連企業がこの高校と提携して独自に行ったものであり(参照)、他の高校では同様の取り組みは確認できない。特定の学校の生徒だけが検査を受けられるのは不公平として、ドイツ教育科学組合(GEW)が懸念を表明している(参照)ことからも、この取り組みが全国的なものではないことが分かる。


(5)「レバノン爆発の原因物質は韓国から輸入」

日付
8/8
発信者
Share News Japan(まとめサイト)
媒体
Webサイト
拡散数
Twitterで3400RT
内容
レバノン爆発の原因物質は2015年に韓国から輸入した硝酸アンモニウム」と題した記事。
引用

【検証】韓国から輸入はインドに保管の別物

レバノンの首都ベイルートで4日に発生した大規模爆発は、港湾倉庫で保管されていた大量の硝酸アンモニウムがその原因と伝えられている(参照)。

Share News Japanの記事タイトルは、あたかもレバノンで爆発した硝酸アンモニウムそれ自体が韓国から輸入されたものだったかのように読めるが、それは正しくない。Share News Japanがソースとして引用しているAFP通信の8日の記事にもあるように、「韓国から輸入した硝酸アンモニウム」とはインドに保管されているもののことである。

AFP通信CNNによれば、今回レバノンで爆発した硝酸アンモニウムは2014年に持ち込まれたもの。ジョージアからモザンビークへ向かう、ロシア企業所有のモルドバ船籍の船に積まれていたものが、レバノンで押収されたのだという。

(訂正)「硝酸ナトリウム」との記載は「硝酸アンモニウム」の誤りでした。訂正してお詫びしたします。(2020/8/14)


その他

FIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)では新型コロナウイルスに関する情報の検証結果などをまとめた特設サイトを開設。国内外の真偽に疑義のある情報を紹介し、随時更新している。

また過去のまとめでも、新型コロナウイルス関連の様々な誤情報についても検証を紹介している。

 
※この記事の調査には、FIJのリサーチャーである武藤珠代氏・日高大氏が協力した。
 

(この記事はInFact(運営:NPOニュースのタネ)からの転載です。過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2020年8月19日の予定です)

 

著者紹介

大船 怜(Ofuna Rei)

NPOメディア「InFact(運営:ニュースのタネ)」コレスポンデント
1986年千葉県出身。2011年3月東日本大震災をきっかけにネットの誤情報等の検証・注意喚起を行うTwitterアカウントを開設。現在派遣社員として一般企業に勤めながら「ネット上の情報検証まとめ」(@jishin_dema)を運営している。大船怜はペンネーム。