《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.35)【大船怜】


インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜ネット上の情報検証まとめ管理人)


(1)「マダガスカル大統領 コロナ治療薬に毒物の依頼暴露」

日付
5/17
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
3600RT
内容
ガーナの個人サイトの英語記事を引用し、「マダガスカル大統領暴露”私の作るコロナ治療薬に少量の毒物を入れるよう、WHOが私に2千万ドル提供してきました」と記事内容を紹介した投稿。
引用
※アカウント名等モザイク処理は筆者による(以下同様)

【検証】大統領府が否定

AFP通信の取材に対し、大統領府は「マダガスカル大統領府はこれら全ての主張を公式に否定する。治療薬『コビッド・オーガニクス』の発表以来、多くの発言がアンドリー・ラジョリナ大統領と誤って結び付けられている」とコメント。また、同様に拡散された「大統領がWHO脱退をアフリカ諸国に呼びかけた」「毒物について持ち掛けたのはアメリカと中国と発言」とする主張も、大統領府は否定している。(それぞれ参考12

なお、ここで言う治療薬「コビッド・オーガニクス」とは、大統領が予防と治療に効果があると主張しているハーブティーのことである。


(2)「アベノマスクの不良品 再検品したらたったの12枚」

日付
5/26
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
1万RT
内容
議事録のスクリーンショットと共に、「あんだけパさんが大騒ぎしてたアベノマスクの不良品って、回収して再検品したら、たったの12枚だったってひどい話だよね。」とする投稿。
引用

【検証】12枚は全戸配布用のみ 妊婦向けでは4万7千枚

このスクリーンショットは、参議院議員の福島瑞穂氏が自身のHP上で公開した、5月14日参議院厚生労働委員会の議事録(未定稿)である。正式版は参議院HPで公開されているが、内容はほぼ同じだ。

上掲の投稿では「アベノマスク」(政府配布マスクの通称)の全体で不良品が12枚であるかのように述べられているが、14日の厚生労働委員会で政府参考人の厚労省医政局長が、妊婦向けマスクの「不具合」の数は4万7千枚、全戸配布用マスクの不良品数が12枚だと明らかにしている。

詳しくはインファクトの別稿記事を参照。


(3)「東京のPCR検査数 19日はたったの48人」

日付
5/24
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
6700RT
内容
「東京のPCR検査数を知ってびっくりした。5月19日は、たったの48人。翌日の20日の検査数は52人。」などとする投稿。

【検証】民間検査を合わせると1000人以上

東京都の新型コロナウイルスのPCR検査数は公式HP上に公開されており、その中の「検査実施人数(健康安全研究センターによる実施分)」という項目には確かに5月19日に48人、20日に52人という数が記されている。

しかし、都のPCR検査には健康安全研究センターの他にも、民間委託機関や民間医療機関で行われたものがあり、陽性患者数などのデータもこれらの民間検査を合わせて利用されている。これを加えた合計件数は「モニタリング指標(6)PCR検査の陽性率」という項目から見ることができ、19日、20日ともに1000人以上である(記事執筆時現在)。なお、「検査実施件数」というデータもあるが、これは検体採取日を基準としているため、結果判明日を基準とする他のデータと数値に若干差が生じている。

詳しくはインファクトの別稿記事を参照。ただし、都の発表データは日々更新されているため、記事中の数値(5月31日時点)は現在のものと異なることがある。


(4)「6月2日 都内感染者数 34人とは別に15人」

日付
6/2
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
9900RT
内容
「東京都の発表した34人の感染者とは別に武蔵野中央病院で15人の感染を確認」とテロップで表示されたニュース番組のキャプチャ画像とともに、「じゃあ49人じゃん」などとする投稿。
引用

【検証】34人の中に病院での確認数も含まれる

東京都は6月2日の都内の新型コロナウイルス感染者数を34人と発表しているが、都内の武蔵野中央病院で同日発表された15人の感染者(入院患者12人、職員3人)がこれに含まれてないのではないかという指摘。衆議院議員国民民主党代表の玉木雄一郎氏も、自身のTwitterで「東京都の新規感染者数、発表された34人に加えて15人の院内感染者がいるとのこと。合計49名。」と投稿していた(削除済み、キャッシュ)。

キャプチャ画像(フジテレビのニュース番組「Live News it!」と思われる)の「~とは別に」という表現からは確かにそのように読み取れるが、同じFNN系列の別の記事では34人の中に「武蔵野中央病院の感染者が、13人含まれている」となっている。NHKにも同様の記述がある。

これについて、東京都議の木下ふみこ氏はツイッターで「本日発表の東京都の感染者数は、34名。武蔵野中央病院の院内感染者数のうち3名は、昨日の感染者数に含まれており、12名が本日発表の34名に含まれています」と説明。都議の尾島紘平氏も同様の説明をしたうえで、一部報道(毎日新聞など)で13人となっているのは他院への転院後の判明が1人いたため述べている

上掲のキャプチャ画像のようなテロップが実際に番組で流れたかは確認できなかったが、「34人とは別に15人」という表現は誤解を招くものだったと言えるだろう。詳しくは、J-CASTニュースの記事も参照。


(5)「米デモで中国語の声(動画)」

日付
6/1
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
6000RT
内容
デモ隊と警察が衝突している動画とともに、「ロサンゼルス、サンタモニカのデモ。『ゾウ、クワィゾウ、ゾウゾウゾウゾウゾウ!』綺麗な中国の標準語ですね。『行け、早く行け』と。やはり。」とする投稿。
引用

【検証】中国メディアの取材映像

動画では確かに中国語で「走!快走!走走走…」(=早く行け!)と叫ぶ声が聞こえるが、これは元々中国メディアCCTVが撮影した映像で、CCTVのモバイル用サイト「央視頻」から元の動画を見ることができる。動画では、中国人記者がワシントンのホワイトハウス前(サンタモニカではない)を恐らく単独で取材している。声の近さから考えても、中国語の声はこの記者かそれに付き添うスタッフのもので、デモの参加者ではないと考えるのが自然だ。

詳細は香港のファクトチェックサイト「annie lab」の記事も参照。

上掲の投稿者自身の意図は不明だが、ネット上の一部ではアメリカで行われているデモ活動やそこから発展した暴動行為は中国が指揮しているという陰謀論があり、投稿にはこの説を支持していると思われる人の反応も多く見られた。しかし、そもそもアメリカには古くから中国系の住民も多く、たとえデモや暴動の参加者が中国語を発していたとしてもそれを中国の関与の証拠と捉えるのは説得力に欠けるだろう。


その他

FIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)では新型コロナウイルスに関する情報の検証結果などをまとめた特設サイトを開設。国内外の真偽に疑義のある情報を紹介し、随時更新している。

また過去のまとめでも、新型コロナウイルス関連の様々な誤情報についても検証を紹介している。

 
※この記事の調査には、FIJのリサーチャーである八木風香氏が協力した。

(この記事はINFACT(運営:NPOニュースのタネ)からの転載です。過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2020年6月10日の予定です)
 

著者紹介

大船 怜(Ofuna Rei)

NPOメディア「INFACT(運営:ニュースのタネ)」編集委員
1986年千葉県出身。2011年3月東日本大震災をきっかけにネットの誤情報等の検証・注意喚起を行うTwitterアカウントを開設。現在派遣社員として一般企業に勤めながら「ネット上の情報検証まとめ」(@jishin_dema)を運営している。大船怜はペンネーム。