《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.62)【大船怜】


インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜ネット上の情報検証まとめ管理人)


(1)「ミシガン州の1地区の投票率は781.91%」

日付
11/28
発信者
トータルニュースワールド(まとめサイト)
媒体
Twitter
拡散数
Twitterで3300RT
内容
【速報】ミシガン州の1地区の投票率は781.91%だったことが判明」と題する画像付きの記事
引用

【検証】実際は78.11%

記事に添付されたリストには100%やそれを超えるような異常な投票率が並んでいるが、このリストは、ミシガン州の選挙結果認定の取り消しを求めた元共和党候補者の人物が提示したもの。リストは公開情報を基に作られたとされているが、実際にはそのほぼ全ての数値がミシガン州が公式に発表した投票率とは異なっている。

PolitiFactは、実際の公開情報に基づき各地区の投票率を算出。例えば、リストで最も高い「781.91%」とされていた「City of North Muskegon」の投票率は、実際は78.11%(郡公式データp.459~のCity of North MuskegonのPrecinct 1と2から算出)。その他の地区もほぼ全てがリストの値とは異なり、常識的な範囲の投票率に留まっている。

唯一数値が正確なのは「Grand Island Township」の投票率96.77%で、これはこの地区の登録有権者31人中30人が投票したことによる。また、「Grout Township」の215.21%というのも実際一時公式に発表された数値だが、有権者数の入力ミスと判明しその後修正されている。

リストには「Zeeland Charter Township」が2回出てくる上にそれぞれ460.51%と90.59%という全く違う数値が記されているなど、ずさんな点が多々見られることも指摘されている。


(2)「(米大統領選)ペンシルベニア州で議会の選挙人指名が決定」

日付
11/30
発信者
門田隆将(ジャーナリスト)
媒体
Twitter
拡散数
2000RT
内容
アメリカ大統領選挙に関して、「先週ペンシルベニアで“議会の選挙人指名”が決定」などとする投稿

【検証】議案が提出されたが不採択

同様の主張では、政治評論家の加藤清隆氏の投稿も約1000RTを集めている。

ペンシルベニア州議会の上院下院では、共和党議員らにより、州議会による選挙人の直接指名を含む議案が提出されたが、どちらも採択されないまま議会は会期を終了(参考12)。「議会の選挙人指名が決定」したという事実は無い。


(3)「ジョージア州で監視カメラが捕えた証拠映像」

日付
12/4
発信者
門田隆将(ジャーナリスト)
媒体
Twitter
拡散数
3700RT
内容
チームトランプ公式Twitterアカウントの動画付き投稿を引用し、アメリカ大統領選挙に関して、「各州公聴会でも驚きの証言続出だが、ジョージア州で監視カメラが捕えた証拠映像には唖然。監督者が係員に部屋から出るよう指示後、その場に残った4人が突然、票が詰まった複数のスーツケースを机の下から引っ張り出し集計を始めた。」などとする投稿
引用

【検証】票の入ったコンテナは正規のもの 不正な手順無しと公式に確認

同様の主張は東京都・豊島区議のくつざわ亮治氏や政治活動家の我那覇真子氏らの著名人、ニッポン放送などのメディア、複数のまとめサイトなどが取り上げ、大きく拡散されている。

しかし、監視カメラ映像にはこのケースと中の票の動きが全て記録されており、正当な集計作業が行われたことを示している。映像を確認した州の選挙担当者らも不正行為の形跡は確認されなかったと結論を下していて、立会人らが部屋を出るよう強制されたという根拠も無い。門田氏の投稿は不正な票が外部から持ち込まれたという誤った主張を示唆しており、ミスリードだ。

詳細はインファクト別稿のほか、Lead StoriesFactCheck.orgなどの検証記事を参照。監視カメラ映像の検証の様子はWSB-TVで見ることができる。


(4)「(新型コロナ)感染者上位30例の内訳」

日付
12/2
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
1.2万RT
内容
感染者上位30例の内訳」と題し、「居住都道府県 日本 10例 中華人民共和国 17例 不明 3例」などとする画像の投稿。(削除済み)
引用
※アカウント名等モザイク処理は筆者による(以下同様)

【検証】最初期の30例のデータ

「上位30例」と題されたこのデータは、実際には新型コロナウイルスの感染者が国内で初めて確認された2020年1月からのデータ30件を確定日順に切り取ったもので、「最初の30例」というのが正しい。この時期には新型コロナウイルスは中国・武漢を中心に流行しており、国内の感染者も中国からの入国者やその接触者が中心だった。もちろん、このことは当時からメディアで報道されている

このデータファイルは元々ジャッグジャパン株式会社が厚労省や各都道府県の発表を基に作成したものだが、「上位30例」などの説明や赤字強調はこれを加工して追加されている。同社社長の大濱崎卓真氏は、拡散されている画像に対し次のように注意喚起している。

詳細はBuzzFeedによる検証記事を参照。

https://twitter.com/oohamazaki/status/1334488146604507136


(5)「(アディダス)NIKEのCM観て勇気もらえた」

日付
12/3
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
1000RT
内容
ナイキジャパンによるCM動画を引用し、「このCM観て勇気もらえた。 #NIKE」とする投稿(削除済み)。
引用

【検証】公式ではない一般ユーザーのアカウント

11月28日にナイキジャパンがYouTubeやTwitterの公式アカウントなどで投稿したこのCM動画は、差別問題などを扱った内容が大きな反響を呼び話題となっていた(参照)。

上掲投稿は、アディダスを思わせるアイコンとユーザー名を持つアカウントから行われていて、一見するとアディダスの公式アカウントがライバル企業の動画を称賛しているかのように見える。実際、俳優の宍戸開氏、脳科学者の茂木健一郎氏など、公式のものと誤解していると思われる反応をする人も多数いた。

しかし、このアカウントは普段アディダスとは何ら関係の無い日常的な投稿をしており、公式ではない一般ユーザーの可能性が高い。アディダスの公式アカウントはアディダスジャパンのものなど複数存在しているが、その多くはユーザー名の横にTwitterの公式認証バッジが付されている。

 

※この記事の調査には、インファクトの西村晴子が協力した。

(この記事はInFact(運営:NPOインファクト)からの転載です。過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2020年12月16日の予定です)

 

著者紹介

大船 怜(Ofuna Rei)

NPOメディア「InFact(運営:インファクト)」コレスポンデント
1986年千葉県出身。2011年3月東日本大震災をきっかけにネットの誤情報等の検証・注意喚起を行うTwitterアカウントを開設。現在派遣社員として一般企業に勤めながら「ネット上の情報検証まとめ」(@jishin_dema)を運営している。大船怜はペンネーム。