《一部誤り》ネット情報 「日本には教師の日がない…地下鉄には教師専用席があり、街中に教師商店もある」?【Taiwan Factcheck Center】


(注:この記事は、Taiwan FactCheck Center(TFC)ファクトチェック記事(2019年11月11日発表)を許諾を得て翻訳したものです。翻訳の責任はFIJにあります。また、TFCの調査にはFIJも協力しました。他サイト等への転載を禁じます。)

【要旨】

ネットが流れている「日本には教師の日がない」という言説が「山本恵子が日本の教師の給与制度は教育財政制度の中で、一番重要な部分だと教えてくれた。… 日本の地下鉄車両にも教師専用席があり、街中には教師商店もあると言った」と指摘している。調べた結果、次のとおりとなった。

1.この言説の情報源は、中国教育雑誌『教師博覧』であり、この雑誌は記事の要約集(ダイジェスト)である。

2.日本の祝日の中には、確かに「教師の日」はない。

3.日本の教師の給与は教育経費に占める割合が最も多い。2018年と2017年の資料によると、約58%であり、この言説に書かれた80%ではない。

4.日本の教師の給与は地方自治体が定めた基準によって異なる。「教師の給与は全国各地で同じだ」という説明は、事実と異なる。

5.「日本の地下鉄車両には、教師専用席がある」という情報は、事実と異なる。

 したがって、「日本には教師の日がない」の内容は、「一部誤り」である。

【背景】

 ネット上で流れている「日本には教師の日がない」という言説には、「山本恵子が日本の教師の給料制度は教育財政制度の中で、一番重要な部分だ。…私は後で分かった。日本の地下鉄の車両にも教師専用席があり、街中には教師商店があります。また、チケットを買う時、列を並ぶ必要がない。政府の配給をもらう時にも教師優先だ。…日本では教師の日がないけど、日本の教師にとって、毎日教師の日を過ごしていることを感じていた」。この言説は、中国語の繁体字と簡体字二つのバージョンがあり、台湾、中国のSNS、まとめサイド、ブログなどで流れている。

図1:ネット言説のスクリーンショット

(図1の翻訳)

(転記)日本には教師の日がない。どうやって教師と教育を尊重するのか?(ネット情報の要約)
 文/翟杰
 昨年9月1日、教師の私は日本の大阪市池田区のある小学校に派遣され、学術交流をした。あの日の朝、私はデスクを整理してカレンダーを見ると、数日後は教師の日だと気づいた。私は海外で教師の日を過ごすことについて、ワクワクするだけでなく、知りたいこともあった。私は向こうの山本恵子先生に、日本の教師の日はいつですか、どうやって過ごしますか、と聞いた。山本恵子さんは戸惑う顔をして、日本には教師の日がないと教えてくれた。
……
 退勤後、山本恵子さんは一緒に食事しようと家に呼んでくれた。私は彼女の言葉に甘えて受けた。山本恵子の家は少し遠いため、地下鉄でしか行けない。通勤時間のため、車両内は大変混雑していた。私はやっと車内に入り込んで、手すりを握った。
 約半分後、隣の年寄りは立ち、私に席を譲った。私は驚いた。私の方が若いのに、お年寄りから席を譲られる理由がないと思った。しかし、どんなに断っても、そのお年寄りも礼をしながら「どうぞ、どうぞ」と言ってくれた。誤解を招かないように、彼の言葉に甘えて座った。電車を降りた後、私はずっと気になるため、山本恵子さんにあのお年寄りが私に席を譲る理由を聞いた。山本恵子さんは笑いながら、私の服にある校章を指して、「君の職業は教師だから、席を譲ったんです」という彼女の言葉を聞いて、心からの暖かさとこの仕事の神聖を感じた。
 初めて他人の家にお邪魔するため、お土産を買わなければならない。山本恵子さんは私のリクエストを断らず、前に「教師商店」があると教えてくれた。自分が教師だと証明できれば、割引してもらえるといった。「教師しかもらえないのですか?」と聞くと、山本恵子さんは頷きながら、「日本国民が最も尊敬する人は教師です。お店は教師が自分のものを買うことは光栄だと思います」と答えた。
 山本恵子さんが日本の教師の給与制度は、教育財政制度の最も重要な部分だと教えてくれた。教育財政の予算の中で教師の給与は最も多い割合であり、約80%を占める。また、日本政府は高学歴の卒業生には小学校、中学校の教師になることを積極的に奨励している。

図2:まとめサイト

図3:SNSの投稿

【検証】

争点1)この言説の情報源は?

 TFCはキーワードで検索したところ、中国の学術データベース『中国知網』から、この言説は中国の定期刊行物『教師博覧』2010年第12期に掲載された記事で、見出しは「日本には教師の日がない」で、著者は翟杰であった。『教師博覧』は、江西教育期刊社が1993年に創刊した記事の要約(ダイジェスト)雑誌である。

 また、この言説は他の中国の雑誌『小讀者』『風流一代』『關心老年』『環境與生活』『文史博覽』『人民文摘』などにも掲載された。

 「日本には教師の日がない」は、2010年に中国の雑誌に掲載され、他の雑誌も転載し、いまは中国のウェブサイトで流れているということになる。

争点2)台湾のネットで流れている言説は雑誌の内容と一致するのか?

(略)図4:『中国知網』で検索した結果

 データベース『中国知網』では、最初の出典の『教師博覧』がダウンロードできなかったため、TFCは2011年の『小讀者』から、この言説をダウンロードした。

 TFCが比較した結果、ネット上の情報は雑誌とのほぼ同じ内容だが、『小讀者』には「山田慧子」「大阪市福田区」と書いている一方で、台湾で流れている内容は「山田恵子」、「大阪市池田区」と書いている。

(略)図5:中国雑誌『小讀者』に掲載された「日本には教師の日がない」

図6:『小讀者』の言説とまとめサイトに掲載した繁体字中国語の言説の比較(TFC作成)

 TFCは、日本の地方自治体のウェブサイトを検索したが、「大阪市池田区」は存在しない。「大阪府池田市」だと推測する。

(略)図7:大阪府池田市の地図の位置(池田市ウェブサイトより)

争点3)「日本では教師の日がない」は本当か?

 内閣府のウェブサイト「『国民』の祝日について」によると、日本の祝日は元旦、成人の日、建国記念の日、春分の日、昭和の日、憲法記念の日、みどりの日、こどもの日、海の日、山の日、敬老の日、秋分の日、体育の日、文化の日、勤労感謝の日、天皇誕生日である。

 したがって、日本では確かに「教師の日」がない。

争点4)「教師の給与に占める割合が教育財政が最も多く、約80%を占める」は本当か?

 日本のファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)の協力を得て調査をした。文部科学省2019年6月1日に公表した「平成30年地方教育費調査中間報告」によると、2017年に支払った「地方教育費」の総額は16兆1112億円であり、その内訳は「学校教育費」「社会教育費」「教育行政費」など3つの支出があった。その中で、「学校教育費」の割合は最も多く、「地方教育費」の84.2%を占めた。

 「学校教育費」の「人件費」は教師の給与であり、「学校教育費」に占める割合は最も多く、9兆4343億円であった。したがって、教師の給与は「地方教育費」の58.6%を占めた。

 文部科学省は2018年11月29日に公表した「平成29年地方教育費調査最終報告」によれば、2016年の「地方教育費」の総額は16兆301億円であり、「学校教育費」は13億4520億円で、83.9%を占めた。その中で、「学校教育費」の「人件費」は9兆4304億円で、58.8%を占めた。

 したがって、教師の給与は「地方教育費」に占める割合が最も多いが、80%ではなく、約58%を占める。

争点5)「日本政府は1985年に制度を定め、大卒幼稚園の教師の初任給は162100円;小学校、中学校の教師は164700円;高校の教師は164500円;大學の教師は153500円…日本の教師の給与は全国どこでも同じく、都会や農村部、最も南側や最も北側でも差はない」という言説は本当か?

 日本の「地方公務員法」第24条第5項は「職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、条例で定める」と定めている。また、第25条には給与に関する条例について詳しく規定がある。

図8:日本の地方公務員法

 したがって、日本の教師の給与は、各地の条例で定められる。

 TFCは、日本各地の教師の給与に関する条例を調べ、東京都の「学校職員の給与に関する条例」、埼玉県の「さいたま市教職員の給与に関する条例」、香川県の「公立学校職員の給料等の支給に関する規則>」、福岡県の「福岡市立学校職員の給与に関する条例」などをみたが、地域によって教員の給料表や給与規定は全部異なっていた。

 「日本の教師の給与は全国で同じ」ということは、実際の状況と異なる。

争点6)「日本の地下鉄車両にも教師専用席があり、街中には教師商店もある。チケットを買う時、列を並ぶ必要がない。政府の配給をもらう時も教師優先だ」という言説は本当か?

 TFCは、日本のジャーナリスト野嶋剛氏に聞いところ、野嶋氏はこの情報は偽ニュースだと答えた。

 台湾に住んでいる日本語教師の保科祐子氏は、日本に住んでいた経験で地下鉄車両に教師専用席は見たことも、聞いたこともない。また、教師はチケットを買う時に列を並ぶ必要がないという話も聞いたことなく、教師商店も見たことがないと答えた。

 保科氏は「年寄りは教師に席を譲る」という話は聞いたことがないという。教師の服には校章がない。このネット情報の内容は、彼女が日本に住んでいた経験と異なる。

【結論】

1.この言説の情報源は、中国教育雑誌『教師博覧』であり、この雑誌は記事の要約集(ダイジェスト)である。

2.日本の祝日の中には、確かに「教師の日」はない。

3.日本の教師の給与は教育経費に占める割合が最も多い。2018年と2017年の資料によると、約58%であり、この言説に書かれた80%ではない。

4.日本の教師の給与は地方自治体が定めた基準によって異なる。「教師の給与は全国各地で同じだ」という説明は、事実と異なる。

5.「日本の地下鉄車両には、教師専用席がある」という情報は、事実と異なる。

 したがって、「日本には教師の日がない」の内容は、「一部誤り」である。

参考資料
(略)