《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.49)【大船怜】


インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜ネット上の情報検証まとめ管理人)


(1)「国交省、北海道に中国人500万人移住計画を発表」

日付
8/26
発信者
あじあニュースちゃんねる(まとめブログ)
媒体
Web記事
拡散数
Twitterで5100RT
内容
国交省、北海道に中国人500万人移住計画を発表!!! 人口の半分が中国人へwwwww」と題する記事(削除済み、キャッシュ)。

【検証】国ではなく民間の提言

2005年に国土交通省と北海道開発局が主催した会合で、中国出身の民間企業社長が「北海道人口1000万人戦略」と題する講演を行っている。しかし、これはあくまで一民間メンバーの提言に過ぎず、国交省の構想や計画として発表されたものではない。また、講演では移住者は200万人とされていて、中国人に限定もしていない。

北海道開発局担当者は「根も葉もない話」としており、実際国がこの提言を採用した形跡も無い。

記事が根拠としていたのは、元北海道議会議員の小野寺まさる氏の発言。小野寺氏はかつてネット番組で「北海道の人口を倍増させる1000万人計画というのを国土交通省と北海道開発局で出した」と述べていたが、後に「国で北海道1000千万人計画は策定しておらず、私もそんな事は言ってません。」と軌道修正している。

詳細はインファクト別稿の検証記事を参照。


(2)「警察官に射殺される黒人は40万人に1人、黒人に射殺される警察官は1万人に1人

日付
9/1
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
2200RT
内容
アメリカでの警官による黒人射殺への抗議活動について、「黒人が警察官に射殺される割合は40万人に1人ぐらいだが、警察官は1万人に1人の割合で黒人に射殺されている」などとする投稿。

【検証】対象期間不明だが、近年の数字とは差

毎日新聞は、警察の公開記録を元に米紙ワシントンポストが作成したデータベースを元に、アメリカで「黒人が警察官に射殺される割合」を40万人あたり2.2人と算出(過去5年間の平均)。上掲投稿の「40万人に1人」とは2倍以上の開きがある。

警察官が射殺される割合は、連邦捜査局(FBI)の統計から算出すると1万あたり0.6人(過去10年間の平均)。射殺加害者の人種は個別に明らかにされていないため、このうち「黒人に射殺」された割合は不明だ。ただし、射殺以外も合わせた全体での加害者人種では約3対2の割合で黒人よりも白人が多い。これらを加味すると、実際は「1万人に1人」よりもかなり少ないと考えられる。

いずれの数字も統計の対象期間によって変わり得るが、そもそも上掲投稿は対象期間を示していないため、どのような統計を元にしているか不明だ。


(3)「中国のSU-35、台湾の防空システムで撃墜

日付
9/4
発信者
奥山真司(地政学者)
媒体
Twitter
拡散数
3300RT
内容
海外アカウントの動画付きツイートを引用し、「中国のSU-35、台湾の防空システムで撃墜され墜落、パイロットは無事だという情報がSNSに」とする投稿
引用

【検証】台湾当局が否定、中国側も追認

奥山氏が引用しているアカウントは海外ニュースサイトのもの。このサイトは「台湾が中国の戦闘機を撃墜」とする記事を掲載しているが、情報源は「台湾のTwitterアカウント」などとするだけではっきりしない。

台湾の国防部は4日、中国機撃墜を「偽情報」とする声明を発表。中国側でも政府当局に近いメディアが台湾側の声明をそのまま報じ、特に否定していないことから、「偽情報」であることを追認していると考えられる。

添付されている動画が実際はいつ、どんな状況のものかは不明である。

詳細はブログ「pelicanmemo」や、インファクト別稿の検証記事を参照。なお、台湾軍が中国機にミサイルを発射したという類似の誤情報は8月にも拡散されている


(4)「石垣のりこの失言 大手紙はどこも報じない」

日付
8/30
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
4200RT
内容
石垣のりこ参議院議員の批判を浴びた投稿に関する女性自身の記事を紹介しながら、「大手紙はどこも報じない」などとする投稿。
引用

【検証】投稿以前に主要紙全てで記事化

持病の潰瘍性大腸炎の再発を理由に辞任を表明した安倍晋三首相について、立憲民主党の石垣のりこ参議院議員は8月28日、自身のTwitterアカウントから「大事な時に体を壊す癖がある危機管理能力のない人物」などと投稿。批判を受け同日中に謝罪している。

29日に朝日読売毎日産経日経新聞などが石垣氏の投稿と謝罪について報道。「どこも報じていない」とする投稿がされた30日までには、一般的に「大手紙」と称される新聞はいずれもこの件を報じていたことになる。

加えて、共同通信時事通信NHKなども28~29日中に同様の報道をしていることが確認できる。

BuzzFeedの検証記事も参照のこと。


(5)「11月からザリガニ飼うと懲役or罰金

日付
9/3
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
8100RT
内容
「ザリガニ等の飼育が禁止へ」と題された文面のスクリーンショット画像とともに、「11月からザリガニ飼うと懲役1年or罰金100万円だから 学校でも気をつけてね」とする投稿(削除済み)。
引用

【検証】まだ検討の段階 アメリカザリガニは対象外

6月に行われた第12回特定外来生物等専門家会合では、新たに特定外来生物に指定するべき動植物のリストが提言されているが、その中には確かにザリガニ類の多くも含まれている。

しかし、外来種のザリガニとして最も一般的によく知られペットとしても馴染みのあるアメリカザリガニは除くとされていて、会合はその理由を「現行法下において指定した場合、飼育個体の大量遺棄が懸念されるなど、社会的な混乱を引き起こすことが懸念されるため、今回の指定は見送ることとされた。」と説明している

また、これらの事項はまだ検討が進められている段階であり、特定外来生物への指定が正式に決定しているわけではない。上掲投稿の時点ではパブリックコメントを募集中であった(5日に終了)。

なお、特定外来生物を無許可で飼育した場合の罰則については投稿者の認識は正しく、個人であれば「一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金」と定められている(外来生物法第33条)。

詳細はねとらぼによる記事も参照。


その他

FIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)では新型コロナウイルスに関する情報の検証結果などをまとめた特設サイトを開設。国内外の真偽に疑義のある情報を紹介し、随時更新している。

また過去のまとめでも、新型コロナウイルス関連の様々な誤情報についても検証を紹介している。

 

(この記事はInFact(運営:NPOニュースのタネ)からの転載です。過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2020年9月16日の予定です)

 

著者紹介

大船 怜(Ofuna Rei)

NPOメディア「InFact(運営:ニュースのタネ)」コレスポンデント
1986年千葉県出身。2011年3月東日本大震災をきっかけにネットの誤情報等の検証・注意喚起を行うTwitterアカウントを開設。現在派遣社員として一般企業に勤めながら「ネット上の情報検証まとめ」(@jishin_dema)を運営している。大船怜はペンネーム。