《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.18)【大船怜】


インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜ネット上の情報検証まとめ管理人)


(1)「バーガーキングの縦読み差し替え」

日付
2/1
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
1.5万RT
内容
「あーあ、秋葉原のバーガーキングの縦読み差し替えになっちゃった。 ユーモア通じない人多いのかな・・・ 」などと書かれた画像付きの投稿。
引用

アカウント名等モザイク処理は筆者による(以下同様)

【検証】個人が作成し掲示したポスター

1月31日、秋葉原にあるマクドナルドの店舗が閉店を迎えるのに際し、2軒隣のバーガーキングが掲示した店頭広告に「私たちの勝チ」という「縦読み」のメッセージが仕込まれているとして大きな話題となった(参考:ハフポスト)。

この翌日に投稿されたのが上掲の写真である。掲示物は前日話題になった広告(投稿左側の写真)と似たデザインだが、文面は別のもので、同じように「縦読み」すると「わすれないよ」という言葉が現れる。前日の広告が皮肉な内容のメッセージを読み取れるものだっただけに、批判を恐れたバーガーキングが無難な内容に差し替えたかのように受け取られ、投稿が拡散された。

しかしこの投稿よりも前に、閉店したマクドナルドの常連だったと思しき別のユーザーが、「別バージョン考えた」「私の気持ち貼っときました」として同じ掲示物を写した別の写真を投稿している(現在は削除済み)。このユーザーはJ-CASTニュースの取材に対し、張り紙はマクドナルドへの感謝の念を伝えるために個人的に作成・掲示したものだったと述べている。


(2)「『募る』の資料手にする安倍首相 前日の答弁について準備したもの」

日付
1/28
発信者
毎日新聞写真部
媒体
Twitter
拡散数
3700RT
内容
写真や記事リンクとともに、「参院予算委員会で『#募る』と書かれた資料を手にする安倍晋三首相です。『桜を見る会』を巡る問題で、自身の地元事務所が『功績』などと無関係に参加者を募集した疑いに関した前日の答弁について準備したものです」などとする投稿(削除済み・キャッシュ)。
引用

【検証】資料を準備したのは野党議員

この投稿では「準備した」について主語が明記されておらず、「地元事務所」あるいは安倍首相自身がこの資料を準備したかのようにも読める。事実、そのように解釈した反応も見受けられた。

毎日新聞写真部はその後「この写真の資料は野党議員が準備したものです」という補足ツイートを投稿。さらに「資料は野党議員が準備したもの」と明記したツイートを再投稿した。その後も数時間程度の間があったようだが、最終的に当初の投稿は補足ツイートとともに削除され、再投稿版のみが残されている。

毎日新聞のニュースサイトではこの写真が「参院予算委員会で(中略)野党議員が追及のために準備した『募る』と書かれた資料を手にする安倍晋三首相」という説明とともに掲載されている

当日の参院予算委員会の映像を見ると、立憲民主党の石垣のりこ氏の質問の初めにこの「募る」と書かれた資料が配布されている様子が確認できる(2時間47分頃~)が、この資料を直接使った質問は行われていない。


(3)新型コロナウイルス関連特集

以下、新型コロナウイルス(新型肺炎)に関連する“要注意”情報のうち、主要なものを簡潔に紹介します。(順不同)

1.「東京オリンピック中止か」
→海外報道が歪められ伝達 組織委も否定

ドイツの報道を参照したサイト「BUZZAP!」の記事が拡散したが、実際の報道には「中止」というような内容は無かった。日本の大会組織委も否定した。


2.「中国人が日本の健康保険に悪乗りするため押し寄せる」
→保険適用外

制度上、短期滞在や治療目的での入国で健康保険に加入することはできない。不正な方法による保険利用も過去にほとんど確認されていない。

またこれに関連して、民主党政権が外国人の国保加入要件を引き下げたというのも正しくない。引き下げを決めた改正法は民主党政権下で施行されたが、成立したのは自民党政権時代だった。


3.「HIVウイルスのタンパク質が挿入されている」
→元になった論文は未査読・後に取り下げ

科学論文は通常複数の専門家からのレビュー=査読を経て公開されるものだが、これは査読される前の段階で公開された論文による主張で、裏付けは十分ではない。多くの反論を受け、論文は執筆者自らが一旦取り下げとした。


4.「研究所から漏れたウイルスが原因と報道」
→可能性として論じられただけで根拠は無し

元は海外報道だが、あくまで可能性の一つとして挙げられただけで断定はしていない。この説を裏付ける根拠が特にあるわけではない。


5.「中国が研究所からの生物兵器漏洩を認める予定」
→根拠や他メディアの報道無し

中国のあるメディアに秘密裏に伝えられた話とされているが、他のメディアでは報じられておらず、主張を支える根拠は無い。1月25日に「最終調整中」とされた中国の発表は今も行われていない。Facebookではこの記事にフェイクニュースの警告フラグを表示している。


6.「役人の判断で邦人感染者のチャーター便搭乗拒否」
→中国側が出国認めず

感染者2人が搭乗できなかったのは中国側の検疫の判断だった。


7.「日本が困った時に中国が何かしてくれたことはない」
→災害時支援の実績多数

東日本大震災を始め過去様々な災害で、中国から官民を通じて人的・物的支援や義援金が送られている。


8.「日本高リスク国2位になったのは安倍政権が入国規制しないため
→一昨年のデータに基づくランキング


その他

FIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)では新型コロナウイルスに関する国内外の情報の検証結果などをまとめた特設サイトを開設した。他に「新型コロナウイルスの危険度と予防・対策(画像)」「○○で感染者が出た」「感染予防に○○が良い」「生鮮市場でコアラが食用に売られている」「中国人のマスク買い占め防ぐため台湾国旗を印刷」などの誤情報も紹介しており、ぜひ参考にされたい。

また、「関空へ入国した武漢人観光客が病院から逃げた」「コロナウイルスの致死率は15%」については前回のまとめでも紹介している。

 

(この記事はINFACT(運営:NPOニュースのタネ)からの転載です。過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2020年2月12日の予定です)

著者紹介

大船 怜(Ofuna Rei)

NPOメディア「INFACT(運営:ニュースのタネ)」編集委員
1986年千葉県出身。2011年3月東日本大震災をきっかけにネットの誤情報等の検証・注意喚起を行うTwitterアカウントを開設。現在派遣社員として一般企業に勤めながら「ネット上の情報検証まとめ」(@jishin_dema)を運営している。大船怜はペンネーム。