《誤り》ネット情報「電子レンジ加熱食品は放射線を含むため日本政府が使用禁止へ 中韓も」【Taiwan FactCheck Center】


(注:この記事は、Taiwan FactCheck Center(TFC)ファクトチェック記事(2019年6月25日発表)を許諾を得て翻訳したものです。翻訳の責任はFIJにあります。他サイト等への転載を禁じます。)

【要旨】

「電子レンジで加熱した食品は放射線を含むため、日本政府が使用禁止へ 中国と韓国も禁止へ」というネット上の情報について調べた結果、次のとおりとなった。

1.この情報はロシアの《Panorama.pub》というウェブサイトに掲載された風刺の記事に由来し、ニュースではない。日本、韓国と中国の主流メディアはこの情報に関する報道をしていない。

2.韓国の科学技術情報通信部が5月末に発表したニュースリリースによると、電子レンジなど37種類の家電製品の電磁波は、人体に対する影響は相当少ない。このニュースリリースは、電子レンジの生産停止にも触れていない。

3.専門家と食薬署(訳注:厚生労働省の医薬・生活衛生局と相当)によると、正しく電子レンジを使えれば、非電離放射線は健康被害がない。
 したがって、「電子レンジで加熱した食品は放射線を含むため、日本政府が利用禁止へ 中国と韓国も禁止へ」は誤情報である。

【背景】

 最近、(訳注:台湾では)次のような情報がSNSで流れている。

日本政府が今年末までに電子レンジを全面的に使用禁止とし、違反した市民や団体に対し罰金と勾留などの罰則を設けます。……広島大学の科学者たちの研究によると、過去の20年に電波による市民に対する健康被害は、アメリカが1945年9月に広島と長崎を投下した原子爆弾より深刻です。……電子レンジの加熱食品にも、非常に健康を害する放射線が含まれています……韓国は2021年に電子レンジは生産停止とすると発表しました。中国でも2023年にこうした技術を使用禁止となります。

SNSで拡散した情報のスクリーンショット

【検証】

争点1)この情報源はどこから出たものか?

 TFCが調査したところ、この情報の情報源はロシアの記事<Япония окончательно откажется от СВЧ-печей к 2020 году>とわかった。翻訳すると、<日本は2020年前に電子レンジ使用禁止>で、ロシアのウェブサイト《Panorama.pub》に掲載されたものだ。

Panorama.pubのサイトより

 《Panorama.pub》は報道機関ではなく、ニュースを偽装しているサイトである。そのサイトに載せる文章の最後には、ロシア語の説明文「風刺の出版物《Panorama》である。本サイトのコンテンツは全て現実に対する風刺であり、本物のニュースではない」と書いている。

Panorama.pubのサイトより

争点2)日本、韓国と中国の主流メディアは、この情報を報道したのか?

 TFCは、日本、韓国と中国などの主流メディアのニュースを調べた。日本のNHK、朝日新聞、読売新聞、韓国の朝鮮日報、東亞日報、KBS、中国の新華社、人民日報、環球時報などのニュースを検索したが、このような情報に関する報道は出ていない。

争点3)広島大学が「電波による健康被害」に関する研究をしたことは本当か?

 TFCは、広島大学の研究検索システムを調べたが、この情報に関する研究はなかった。

争点4)最近電子レンジに関する研究はあるのか?

 イノベーション技術を担当する韓国の科学技術情報通信部は、今年の2月から3月までに市民の申告を受け、37種類の家電製品と生活空間の電磁波を測定した。その結果は5月30日に、「各製品と空間の電磁波の測定結果」というニュースリリースで発表された。

 この研究において、家電製品の種類の選定と測定結果についての議論は、「生活における電磁波」委員会で市民団体と学界が参加したうえで決定した。その中で、家電製品の電磁波の測定は韓国の国立電波研究院が担当し、生活空間での電磁波の測定は韓国の放送通信電波振興会が担当した。

 この研究結果によると、日常生活に使っている家電製品(電子レンジも含む)の電磁波の測定値は、人体保護基準値の範囲内であった。多くの家電製品の電磁波の量は人体保護基準の約1%で、電子レンジの測定値は他の家電製品より高いものの、人体に有害ではない。

 また、韓国の国立電波研究院が発表したデマを打ち消す声明文によると、電子レンジは「磁電管(magnetron)」で食品を温める2.45GHzの電磁波を作る。磁電管を運転するため、高変圧器が必要だ。高変圧器が電圧を変更する過程に生成する60Hzの電磁波は、確かに普通な電磁波より高い。そのため、電子レンジを使用する時には、30センチの安全距離を確保したほうが良い。

 韓国の科学技術通信部や国立電波研究院のウェブサイトでは、電子レンジの生産停止に関する情報はなかった。

争点5)電子レンジで加熱した食品には放射線が含まれるのか?

 国立台湾科技大学電機工程学系の馬自荘教授によると、電子レンジの電磁波は、低エネルギー、低周波数の非電離放射線である。非電離放射線は、有害物質や放射線汚染が残らないため、安心して使える。馬自荘氏は、波長が3nm(10-9m)以下の電離放射線、例えばX線やアルファ線が、化学結合を切断して生物の細胞の分子を破壊し、人体健康にも影響すると説明した。

 食薬署のデマを打ち消す声明文によると、正しく電子レンジを使用すれば、毒素や有害な放射線物質が生成することはない。マイクロ波は電磁波の一つで、周波数は2.45GHzの非電離放射線である。エネルギーは低いため、極性分子を回転し、振動することしかできない。その中身の成分は変更できない。つまり、マイクロ波は食品の水を蒸発させるが、食品の成分は変わらないので、毒素や有害な放射線物質も生成することはない。

【結論】

1.このデマの情報源は《Panorama.pub》というウェブサイトによる風刺の記事であり、事実ではない。

2.日本、韓国と中国などの主流メディアは生産停止や使用禁止に関する情報を報道していない。

3.韓国の科学技術情報通信部が5月末に発表したニュースリリースによると、電子レンジを含む37種類の家電製品の電磁波は、健康被害はない。電子レンジを使用禁止とする情報もない。

4.日本の広島大学には電波による健康被害に関する研究がない。

5.専門家と食薬署によると、正しく電子レンジを使えれば、非電離放射線は健康被害がない。
 したがって、「電子レンジの放射線による有害性のため、日本、韓国、中国で生産停止となる」という情報は誤りである。

参考資料

전자레인지에 대한 오해
조간 (보도) 과기정통부 다양한 생활제품.공간 전자파 측정결과 공개
Япония окончательно откажется от СВЧ-печей к 2020 году