FIJセミナー「メディアは選挙で何ができるのか ― 宮城県知事選と河北新報のファクトチェック」を開催しました(12月14日)

写真:河北新報記者の横山勲さん(右)

写真:河北新報記者の横山勲さん(右)

ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)とスローニュースは12月14日、河北新報記者の横山勲さんをお招きし、FIJセミナー「メディアは選挙で何ができるのか ― 宮城県知事選と河北新報のファクトチェック」を開催しました(会場+オンライン)。
メディア関係者のみならずファクトチェックに関心を持つ市民など、多くの方々にご参加いただきました。

10月に実施された宮城県知事選挙では、候補者や政策をめぐるデマや誤情報がSNSなどで飛び交いました。それに対して、地元紙の河北新報が選挙期間中、ファクトチェック記事を連日のように掲載し、注目されました。このとき中心となってファクトチェックに取り組んだのが横山記者でした。

河北新報のファクトチェック『かほQチェック』は、今年2月に始まりました。その背景には、昨年の兵庫県知事選でデマや誹謗中傷が氾濫したことへの危機感があったといいます。
『かほQチェック』の設計にあたっては、レーティング(判定)はしないこととし、情報源を明示して判断材料を提供したうえで、結論は読者にゆだねるかたちをとりました。事実関係を時系列で整理し、その背景にある文脈を説明することで、SNSなどで断片的に切り取られ、別の文脈で解釈されてしまった事実を軌道修正するイメージで記事を構成したそうです。

今回の知事選では、告示1か月前から「兵庫県知事選と似たような状況になるのではないか」と予測し、準備を進めました。「土葬」「水道」「メガソーラー」「外国人」など、争点化が予想されるテーマについて、記者たちが自主的に情報を整理。選挙期間後半の約1週間で、関連記事を含めて9本の記事を公開しました。
たとえば水道事業をめぐる言説についての記事では、2017年から県議会で議論されてきた経緯を整理し、浄水場などの運転管理はすでに民間委託されており、新たな水道事業で民間委託されたのは資材の調達や改修工事にとどまることなどを詳しく説明しました。

宮城県知事選挙で再び争点「水道みやぎ」導入の経緯って?<かほQチェック>
https://kahoku.news/articles/20251018khn000001.html

一方で、リソース面での課題も浮き彫りになりました。『かほQチェック』にかかわる作業が特定の担当者に集中し、掲載が一時滞る場面もあったそうです。SNSを定量的に分析するにはツールも必要です。ファクトチェックは広く多くの人が読めるようにすることが重要ですが、新聞社は民間企業であり、記事の全文を無料で公開することには社内の反対もあったそうです。
しかし、『かほQチェック』で「河北新報が本気出していることを見せた」ことがSNSで話題を呼び、「土葬」「水道」「メガソーラー」がほとんどだった言論空間に冷静な意見が増えたという手ごたえを感じたともいいます。「河北新報の読者は最後はよくやったと言ってくれると信じていたし、結果的にがんばってよかったなと思っている」と横山記者は話していました。