国立感染研の文書不開示決定を覆す成果 InFactの指摘で【ファクトチェック通信】


(この記事は、FIJの無料メールマガジン「ファクトチェック通信」2月27日号を再編集したものです。メールマガジンのご登録はこちらから)

▼FIJレーティング基準の活用は11社 使用実績500件超に

FIJのファクトチェック・レーティング基準をこれまでに計11社が活用し、使用実績が500件を超えたことが、FIJ事務局の調査でわかりました。
2019年7月以降、各メディア・団体が発表したレーティングを明示的に発表したファクトチェック記事を集計。レーティングの使用頻度を調べたところ、最も多かったのが「誤り」で全体の48%、次いで「ミスリード」(18%)、「不正確」(14%)となりました。

FIJのレーティング基準は、2019年4月ファクトチェック・ガイドラインの一部改定時に策定。ファクトチェックに取り組んでいる、もしくはこれから取り組もうとしているメディア・団体がFIJの許諾なく活用できるものとして公表しています。これまでに、大手メディア(新聞・テレビ)6社、非・大手メディア5社がこのレーティング基準を用いてファクトチェック結果を発表したほか、教育現場などでの利用も報告されています。

2022年の1年間では、ファクトチェックを1件以上発表したのは13社、うちFIJのレーティング基準を活用したのは9社、独自の基準を使ったのは4社でした。

2019年7月以降のFIJのレーティングの使用頻度をメディア別に分析したところ、大手メディアは「根拠不明」や「不正確」と判定した案件が比較的多く、非・大手メディアは「虚偽」や「ミスリード」の判定がやや多い傾向となっています。


▼日本のニュースサイトの偽情報リスクを評価 GDI、報告書を発表

世界のニュースサイトの偽情報のリスク評価を行っている非営利団体・グローバル・ディスインフォメーション・インデックス(GDI)は、早稲田大学次世代ジャーナリズム・メディア研究所(所長:瀬川至朗、同大政治経済学術院教授・FIJ理事長)と共同で、日本の主要なニュースサイトの偽情報リスクを調査した結果を報告書にまとめ、2月23日発表しました説明会開催情報)。

評価対象となったのは新聞社など大手メディアなどが運営する33のサイト。約4割は偽情報リスクが最小ないし低レベルで、偽情報リスクが最大ないし高レベルと評価されたのは限定的だったと評価されました。一方、「正確性の確保」の指標の平均得点は100点満点中14点にとどまり、ほとんどのサイトで偽情報リスクの軽減に役立つ運営方針(掲載後の訂正方針など)に関する透明性を欠いている、とも指摘されています。

▼総務省PF研、偽情報対策の課題を整理 FIJや各事業社が発表

総務省のプラットフォームサービスに関する研究会(PF研、座長:宍戸常寿・東京大学大学院法学政治学研究科教授)が2月10日開催され、偽情報対策に関連する民間の取組みと課題について、FIJ、ヤフー、LINE、Google、日本ファクトチェックセンターを運営するセーファーインターネット協会が発表しました。FIJは楊井人文理事が担当し、日本のファクトチェックが抱える課題を整理。各発表資料は総務省のサイトで公開されました

ただ、Twitter、メタの両社から発表が行われず、特にTwitter社から事前のヒアリングシートの提出もなかったため、宍戸座長から遺憾表明がなされる事態となりました。

PF研は2018年に設置され、偽情報対策も検討課題の一つと位置付け、20年2月に最終報告書を発表。民間主導の「ファクトチェックの推進」が明記されました。その後も審議を継続し、22年8月に第二次とりまとめを発表しています。

▼国立感染症研究所がInFactの指摘で見解修正

国立感染症研究所は、新型コロナウイルスの存在を証明する論文の情報公開請求に対して「『論文』は『行政文書』に該当しない」との理由で不開示としてきた従来の対応について、InFactの指摘を受けて見解を修正し、一部の「論文」について「行政文書」として開示する決定を出しました。2月16日、InFactのファクトチェック記事で明らかになりました。

InFactのサイトより

InFactの立岩陽一郎編集長は「この問題は同志社大学の学生がSNSでの発信を見つけてファクトチェックを行ったものを、その内容を踏まえてInFactのチーフエディターである田島輔が更に感染研を粘り強く取材して事実を明らかにしたものです。ファクトチェックと調査報道の融合により感染研に対応の誤りを認めさせ、混乱の原因となっていた不開示決定を『開示』に変えさせる成果を生みました。是非多くの方に読んで頂きたいと思います」とのコメントを出しています。

▼InFact・田島氏が日弁連から受賞

InFactでファクトチェックに取り組んできた田島輔チーフエディター(弁護士)が、日本弁護士連合会の2022年度「若手チャレンジ基金制度」により、これまでのファクトチェック活動の功績が評価され、受賞したこともわかりました。

InFactの発表によると、田島氏は「SNSに誤情報があふれている現代では、正確な情報を求めることは重要な権利です。この度、ファクトチェックが、先進的な弁護士の業務として認められたことは、大変嬉しく思います。今後も、ファクトチェックを通じて、誤情報対策に貢献していきます」とコメントしています。

▼FIJ理事長がファクトチェックの講演 3月8日オンラインで

FIJの瀬川理事長が、NPO法人くらしとバイオプラザ21主催のオンラインイベントで、「ファクトチェック~偽情報・誤情報とどう向き合うか」をテーマに講演を行います。3月8日13時半開始で、詳細はこちらです。

ファクトチェック・ナビ 新着記事

  誤り   コオロギは食べてよいと聖書の記述が書き換えられた(BuzzFeed JAPANによる検証、2月22日)
  誤り   国立感染症研究所「『論文』は『行政文書』に該当しない」(InFactによる検証、2月16日)

  ミスリード   福島の魚から漁連の基準超えセシウム(BuzzFeed JAPANによる検証、2月16日)

  誤り   トルコ地震、発生24時間前に大使を引き揚げた国リスト(BuzzFeed JAPANによる検証、2月15日)

  誤り   EU全域でピザ等に “虫の添加物 “を加えることが決定(BuzzFeed JAPANによる検証、2月7日)

  誤り   グレタさん逮捕のリハーサル動画が流出(リトマスによる検証、2月2日)

ファクトチェック・ナビでは「ファクトチェック一覧」「誤情報関連ニュースリンク集」を随時更新しています。ぜひご覧ください。

FIJニュース

●FIJの活動報告書(1月分)を掲載しました
●FIJの楊井人文理事が、Yahoo!ニュース個人でファクトチェックの意義を訴える記事などを発表してきたことが評価され、「10周年オーサースピリット」賞を授与されました。
●今春初開催するファクトチェックアワードの選考委員5名が決まりした。外部委員は東洋大学教授の小笠原盛浩氏、中央大学教授の松田美佐氏、スマートニュースメディア研究所研究員の宮崎洋子氏、内部委員は藤村厚夫副理事長(スマートニュース株式会社フェロー)、乾健太郎理事(東北大学大学院教授)。選考委員長は互選により松田氏に決定しました。

(*) ファクトチェックアワード選考委員について追記しました。